STAR OCEAN Sanctions of God







第九章 







第六部  










---昨日 ラスガス山脈---



「どういうことだ」

ギョロウルがジーネの前でそう呟いている時

既に魔族達は戦いに向け、少しずつクロスへ進路を進めていた

「俺は…ここまで事が進んでいるとは思わなかった…」

ジーネは空をジッと見つめながら目を細めた

「元々いつかはこうなると分かっていたのだ」

ギョロウルは虚しさと哀しさでうつむいて肩を震わせる

「我等は恐れられる存在…それは人間が我等のテリトリーに入らなければ…」

ジーネは首を横に振り、ギョロウルを見つめる

「どのみち人は羽もないのに空を飛び、この星から他の世界へ行く事ができる

我等のように自然と共存するように進化した者達にとって…脅威でしかない…

双頭竜…お前達が一番分かっているだろう?

だが…この地エクスペルの人々はまだこの大地を愛し、誇りを持っている」

ギョロウルが否めない様子で背を向けた

「誇りと誇りの…ぶつかりあい…なのだな…」

ジーネがただ頷き、瞬き始めた星を見上げる




ギョロウルは数時間ほど前には小型宇宙船でこの地に降り立った

あまりのエクスペルの変貌ぶりに驚きを隠せず

とにかくこのラスガス山脈に着いたのだが…

エクスペル人が連邦と接触をしてしまったせいで魔族間がおかしくなり

力を手に入れたと過信したエクスペル人は魔族を心から恐れなくなった

ラクールの魔族は殲滅され…そしてクロスへ…

セリーヌが交渉に来たのは聞いたが…

ジーネに断られ、どれ程心を痛くしたのか分からない



「双頭竜…お前達はここに何しに来たのだ…?」


そう最初にジーネに聞かれた時…

すぐに答える事が出来なかった

ただせっかくアシュトンと離れる事ができたから…

一番最初にしたかった事をしたまでだった

「魔族としてここに来たかった」

ジーネはどこか呆れた様子で羽をなびかせた

「貴様は既に魔族の誇りなどなくなっている…」

反論をしようとは思った…だが

「人と…長い時間過ごしすぎたからな…」

分かっているのだ…既に魔族の殻を被っているだけの存在だと…

ジーネも分かっているかのように見下ろす

「ここに来たのも…人間の形で分離したから力が制御し辛いのだろう?」

その通りの事を言われ、ギョロウルは黙ってうつむいてしまった


「力を制御して…クロード達と共に戦いたい

それがお前の選んだ道なのなら…私は力を貸そう」


そう…それを望んでいる望んでいる…筈なのだ…

完全に制御する事で…魔族という本能を…捨てる…


魔族を……捨てる…



俺達は百年という月日を魔族という本能で生きてきた

周りの餌がなくなれば人を襲う、俺達に危害を加えれば攻撃をしかける

それはただの動物と変わらない

だが…いつの間にか俺達は理性を保ち、誇りをかざすようになり始めた

自分が何者なのか…それを知り、あらぶる心を持って、周りの動物を圧倒していく

気が付けば周りには自分よりも何千年も生き、悟っている魔族がいる事に気付いた

そう…魔族は…

動物という自然と共に生きる心のままに自我を持ち

限りなく自然と共存するための進化を遂げ、それを守り抜く心を持った生物

あらぶる者もいれば穏やかな者も存在する


人と違うのは…価値観や外見だけなのかもしれない…

誇り…?


「誇りなど人と多少として変わらず

思う気持ちの個人差があるだけ…だな」


ジーネはボソッと呟いたギョロウルの言葉を聞き、頷いた


「それを知りながらも本能にまかせるのが魔族だ…」


ギョロウルは息を大きく冷え始めた空気を吸い込み

目前に広がる高原を見渡した

「俺達は…もうこだわらない」

ジーネは低いトーンでギョロウルと同じ方向を見つめた

「そうか」

ギョロウルは決心をしたかのように思えたが、ギョロウルは瞳を閉じて座り込む

「だが…」

ジーネは何かを見透かしたようにジッとギョロウルを見つめる

「契約者を生かしたいのだな…」



契約者…アシュトンに双頭竜の呪いがかかった時点でアシュトンは長く生きられない

共存する事で力を増していたように思えたが…

事実アシュトンの力を吸収し強大になる双頭竜

共存するアシュトンは自ら力を吸収される事を知りながら己を鍛える事をやめなかった

それはお互いだけが知る契約

いつしか双頭竜は強大な力を得ることをやめ、共存を望んだ

その溜め込んだエネルギーを再変換したのがトライエースではあったが…

そのトライエースを放つ度にお互いの力の反発で

より生命力、精神が削られ、寿命が縮まっていく

それでもリヴァル戦でアシュトンと分離した事で呪いは消えた

だが既に体は蝕まれている為、いつまでもつのか分からないのが現状


「本当はこのまま力を授かってクロード達の元へ向かいたかった

だが、俺達とアシュトンはどのみち旅の途中で息絶える

お互い足手まといになってしまうし

それにアシュトンにはプリシスがいる…

だったら…俺達はアシュトンの命の糧になりたい…

そして少しでも長く仲間達と居て貰いたい」

ギョロウルがそう嘆いている間にジーネは眩い光に包まれながら詠唱を唱えていた

「ジーネ…?」

ジーネは眩い光の中で眼を光らせた

「それを決めるのは…お前達ではないであろう…?」





ヴゥゥオオオオオンッ!!!





眩い光と共に天を突くオーラがきらびやかに光った

ギョロウルは眼を疑った

光が発した場所にはアシュトンが立っている

セリーヌが「テレポート」というのを使ったのを見た事があるが…

アシュトンは確か違う宇宙群にいた筈だ

「ただ契約者を呼び出す紋章術を最大限に使ったまでだ」

ギョロウルはあまりにも強大な力に含み笑いをした

ジーネには頭があがりそうにない

アシュトンは状況が飲み込めない様子でキョトンとしている

「アシュトンよ、契約者に聞かずに己の魂を捧げようとしていた者がいたので…

呼ばせてもらった」

ギョロウルは余計な事を…とポツリと言った後に目線を反らしながらアシュトンに体を向ける

アシュトンは少しずつ状況を理解してきたのか周りを見渡した後に目くじらを立ててギョロウルに迫った

「ここ、エクスペルだよね?僕に内緒で何をしようとしたわけ?」

ギョロウルはアシュトンと目を合わせてしっかりと言い放つ

「アシュトンに問いたいことがある」

アシュトンは少し難しい表情になった後にしっかり頷いた

「分かっているな…?我等の命が残り少ないということを」

アシュトンはコクリと頷く


「このままジーネに二人で力を授かり…一緒に短い旅を続けるか…

我等がアシュトンの命となり、少しでも長く仲間達と共に生きるか」


アシュトンは迷うことがなかった


「一緒に出来る所まで頑張ってみようよ!」


ギョロウルは目を細める

「仲間の足手まといにならないか…?

それにプリシスはどうする」

アシュトンはうッとなって一歩下がったが、もう一度勢いを取り戻す


「それでも僕らはずっと一緒だよ!!」


その言葉にギョロウルは一瞬動揺してしまったが、眉を潜める

「だが俺達…我等はアシュトンに少しでも幸せになってもらいたい…

それが、取り憑いてしまった報いだ」

アシュトンは唇を噛み締め、握りこぶしを作って言い放つ


「取り憑いてくれなかったら…!

ギョロとウルルンとも仲良くなれなかったし!

皆と旅することもできなかった!

最初は不幸だって思ったけど…!!


今はこれほど幸せな事はないと思ってる!」


ギョロウルは目頭が熱くなるのを感じ

胸の鼓動が抑えられなかった

「アシュトン…」

どちらからとでもなく、肩を抱き合う二人

ジーネはどこか微笑んでいるようであった

















「行くのだな」

力を授かり、再び双頭の竜を背負うアシュトンは高らかに頷いた


「エクスペルの皆にも…魔族にも悪いけど…

僕らは僕らのなすべき事をするまでだから」


そう言い放つと久しぶりの背中の重量感に安心を覚えながら駆けて行った

「どんな困難が待っていようと…彼らには祝福を…」

ジーネは数を増した魔族の群れの行く先を見つめた

「最後が人間と総力戦…というのも…悪くないのかもしれんな」

星が瞬き、一際強い風が起こった後…ジーネは羽ばたいていった

















---サルバ坑道 最奥---


「すまないな…最後にここに来たかったんだ」

ギョロがアシュトンにそう喋ると、アシュトンはボーっとその場で立ち尽くした

「懐かしいね…

僕は竜退治をして…剣士として有名になりたかったんだ

そしたらクロード達とたまたま出くわして…」

ギョロとウルルンがそれぞれ笑いながら話しだす

「あの時のアシュトンは強いかというとそんな強いわけではなかったな」

ギョロが笑いながらウルルンに語りかける

「少し遊んでやって取り憑いてみれば、『あとちょっとだったのに』

とか言っていたな…?」

ウルルンがアシュトンの顔を口でつつきながらにやけていた

「うぅ…あの時はとっさだよ…;遊ばれていたのは知ってたし…

焦ってたから…;」

ギョロとウルルンが笑いながらアシュトンを小突きだした

「ちょっ、やめっ!ってってば!」

ギョロウルは一向にからかうのをやめない

「我等が背中からいなくなってからプリシスとどう進展したか言ってみろ!」

ウルルンがそう言った途端アシュトンに口を閉じられ、じたばたと暴れだす

「その様子だと…我等の目を気にせずラブラブだったわけだな

我等がいなかった方がプリシスといる分には幸せだったろう?」

アシュトンは顔を真っ赤にしながらムキになってギョロとウルルンの首をつかみあげた

「い、いいじゃないか!!いつもプリシスが遠慮しがちで…

き、キスすらあんまり出来なかったんだから!」

苦笑いの二匹はからかうのをやめて周りを見渡す

「本当は…我等は人間の愛を知ってアシュトンと離れたかった時期もあったのだぞ?

別に邪魔をしたいわけではなかったからな…」

ギョロがそう言いながらウルルンがうんうんと頷いた

「ご、ごめん…」

アシュトンが余計に気を使い出してわたわたしていたが喋りだす

「だけど…僕と…ギョロとウルルンの最初の共通点あるよね…」


「孤独だな」

「孤独…」

「孤独だよね」


三人同時にそう言うと三人は笑い出す

「我等は二匹だったが…アシュトンはそれでまでどうしてきたんだ…?」


アンカース一族の村は魔族、魔物によって滅ぼされた事

一流の剣士を目指し、アンカース一族の名前を後世に残すために頑張ってきた事

アシュトンの今までの事を語るうちに夜が明けてきたことに気付いた


「そろそろ…行こうか」

アシュトンがそう切り出した

ギョロとウルルンも十分だと囁き

再びラスガス山脈へと足を進めた
























---クロス平原---





ズギャァァァァアアアアアアンッ!





クロス平原中、人と魔族の死体が散乱する中

アシュトンは目の前の光景に絶句するしかなかった

ギョロとウルルンは何かが吹っ切れたような気持ちで

ラスガス山脈が消え去っていく様を見つめる

まるでソーサリーグローブが再び落ちたかのような感覚

再びエクスペルを滅ぼそうかという威圧感と緊張感

それに小型宇宙船はラスガス山脈にあった


エクスペルから出る事など…もう出来なくなったのだ…


だが、その宇宙船をどうしようと三人は考えない


もう…これは…運命なのかもしれない


そう…思ったのだ

「今のはアースホープ…」

プリシスは絶対にそんな事はしない

ギョロとウルルンは目を凝らして放たれた先を見つめた


「連邦の戦艦だ」


その瞬間憎悪を感じるアシュトン


「誇りかけた戦いに…連邦が…何を…」


ギョロとウルルンは地平線に見えるクロス城跡に目を凝らす

「戦っているのは…魔族と人…」

アシュトンが何故かゆっくりと戦地へ向かって走り出した

「だが…人は全て連邦の連中だ、近代兵器で無抵抗な魔族をおいやっているな」

そう言われた瞬間にアシュトンは眉を吊り上げ、双剣を抜く

セリーヌが連邦を呼んだりはしない…だったら…

一瞬チサトの名刺が魔族に刺さっているのを見つけ

ボーマン特有の技の跡、そしてノエルのアースクエイクの巨人を見つける

「皆…戦ったんだね」

そして決心した


「僕は…誇りをかけた戦いに手を出すつもりはなかった

でも…連邦がこの戦いを汚すなら全力で食い止める!」


そう…もう、クロード達と共に戦う為に力を制御しなくていいのだ

ギョロとウルルンが笑みを浮かべた後に大きく雄叫びをあげる


「我等誇り高き魔族ッ!!!!」


ズゥウウウン!!!


そう言った瞬間にギョロとウルルンが吹っ切れ、辺り一体の大地を揺るがした

その強大な魔力と互角の力がアシュトンに溢れる


ズドォオオオン!!!


その瞬間、クロス城前付近に向けてもう一発のアースホープが放たれた

次々と打ち消されていく魔族たち

その時点で岩を砕く早さで大地を蹴るアシュトンがアースホープの真下に滑り込み


「大いなる創造神トライアロ!!」


ズォオオオン!!!


アシュトンと双頭竜の下に直径1キロはあるかと思われる紋章を刻み


「今ここに…!我等の力を捧げるッ!!!!」


光輝く双剣に強大な双頭竜の力を込め、上空に向かって振りかざした













グラウンドトライアロンッ!!!!






ズギャァアアアアアアアアアンッ!!!!!










トライエースのように一帯を破滅するのではなく

圧縮したエネルギーをそのまま解き放つ

グラウンドトライアロンはアースホープと打ち消しあい

周りのほとんどの物が消えうせた

だが、クロス城周辺はかなりの高レベルのバリアが張り巡らされていたため

無事に原型をとどめ、その中の人々はアシュトンを見て、呆気にとられていた

「なんだか…生きてる心地がしないよ」

アシュトンの周り数百メートルは数メートル地面が削られ

双頭竜を背負うアシュトンとがそこで立ち尽くしていた














*こめんと*


やはり考えさせられてしまうこの九章

クロード達のために力を取り戻そうとしたギョロウル

だがアシュトンの安否が気がかりでジーネに召還してもらい

真義を問う

共に戦う事を約束したのもつかのま

小型宇宙船ごとラスガス山脈が消されてしまう

だが、もうアシュトンとギョロウルには関係なかった

自分達の戦うべき場所はここだと確信した

こうして…エクスペルの誇りをかけた戦いが始まる



と…大変難しくも、壮大にやらせてもらいました

アシュトンの過去のお話も入れたかったんですが…

行数が多めなんで却下(苦笑

元の話しに追いつき、この後アシュトンと双頭竜の誇りと命をかけた

戦いが始まります



こうご期待!!!





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