STAR OCEAN Sanctions of God







第九章 







第五部  






「貴様…なぜ我等に…」

ジーネがノエルを淡々とした眼差しで睨みつける

一時停止した魔族と連邦の軍

ノエルが降り立ち、連邦の軍の前に立ちはだかった

周りの兵士達は撃とうと試みてはいるが、目の前にいる岩の巨人に圧倒され

そして大きな壁に阻まれ様子を伺うしかなかった

ノエルは目を食いしばりながら喋り始める


「僕はこの星が大好きです…!人々も!自然の息吹も…!

その中で人が発展していくのは定め…

ですが!己の命を込めた戦いに

他の星の者が手を出してはいけないと思います!」


マグライトが無表情でフェイズガンを取り出してノエルに銃口を向けた

「何を言おうと我等は人間の味方しかしないのだよ

奇麗言を聞くのは大嫌いでね、君のようなちっぽけな存在を見ると…

魔族の小ささがよく分かるのだよ」

そう言ってフェイズガンを放とうとした途端


ザシュッ!


「ぐッ…!」

手元に激痛が走る

マグライトはふら付き、フェイズガンを地面に落とした

手元には名刺が数センチ食い込んでいる

刺さった名刺を見つめた

「チサト…マディソン…新聞記者…」

マグライトは少し眉間にしわを寄せ、顔を上げる

ノエルの横に赤髪の女性、チサトが堂々と立ち

その後ろに白衣をなびかせ、ボーマンが煙草を吸いながらこちらを凝視していた

「まさか、私が魔族の味方をするとは思わなかったけど…

連邦が横槍入れるのがどうも納得いかないのよね

それにクロスを占領したみたいな形になってるし…」

マグライトが口元を緩める

名刺を握りつぶし、チサトを睨みつけた

「命が惜しくないのか?」

チサトは呆れた様子で拳を突き出す

「死ぬのは怖かった…でもあなた達のせいでテンション狂っちゃったわ…

私達のプライドまで傷つけられた気分よ、まったく…」

ボーマンが周りを見渡しながらチサトの横に立った

そして面倒くさそうに呟く

「俺らは負けでも良かったんだぜ?

それをお前らがぶち壊したんだ

人間を救うためって言いながら人間をそういう風に制圧するってのは…

偽善者のやること…

自分らが正義だとでも思ってるのか?おい」

ボーマンの挑発に兵共々マグライトが戦闘態勢に入る

そしてマグライトが淡々と命令を下す

「人を殺すなと言われてはいるが、人間としてあるまじき行為をした者が…

人間とは認め辛いものだ


さぁ、目の前にいるのはただの敵、人ではない

魔族共々排除する


突撃ッ!!!!」





「我等の今の敵はこの星でない者達だッ!かかれッ!」





ノエルは困った表情を

チサトは笑みを浮かべる

そしてボーマンが呆れた表情で身構えた



ズゴゴゴゴゴッ!!!

ドゴォオオンッ!!!


先制はノエルでアースクエイクを前方に大きくぶつけた

「くっ…!」

門ぎりぎりで身構える兵達に最大で攻撃を放つ事ができないノエルは

やり辛そうに周りを見渡しながら攻撃のチャンスを窺い

通常の紋章術を確実に兵に当てていく


ズゴォッ!!


素早さを生かしながらチサトはそのままフェイズガンを避けながら

前方に向かって突っ込み、隊列を崩していく

軽装部隊の一人がチサトを後ろから蹴り上げようとするが

その兵の攻撃は軽々避けられて遠くに吹っ飛ばされた

「そんなありきたりな拳法じゃ相手にならないわよー!」

そう言いながら次々に兵をなぎ倒していくチサト



「おぉ…よく燃えそうな服だな」

戦闘兵が前方に警戒している中で後ろでボーマンが煙草を吸いながら突っ立っていた

「い、いつのまにッ!!!」

あまりに連邦の兵が密集している中に紛れているため、攻撃がし辛い状況になっている

その為、ボーマンの動きを見つめる兵士がほとんどであった

「これ、煙草なんだが…これでお前らの服って燃えるか?」

兵は焦りながらも馬鹿馬鹿しく思ったのか笑い出した

「我等の服が火なんか効くとでも思っているのか?くはは!笑いものだな」

ボーマンは以前として攻撃をしてくる様子もなく、ただ前方を見つめていた

その視線に兵が数人そちらを見つめる

「マズイ!!前方の兵士が…!」

兵達が振り向いた頃には既に遅く、前方の兵は援護がないせいで押され

魔族が目の前に立ち、気が付いた頃には魔族がはいた炎によってその周辺の兵は多大な被害を受けた

「やっぱ火は効くみたいだな

つぅか、なんだぁ…この部隊は…俺らをなめてるのか?」

ボーマンが次々に迫ってくる兵に攻撃の隙を与えずに吹き飛ばしていく


魔族の勢いをもった突進

それに負けぬ勢いで魔族を吹き飛ばしていく近代兵器


連邦の人間が遠距離武装しているにも関わらず

それは何千という突進には歯が立たたない

近距離武器を使用をしている者は魔族のゴリ押しでほとんどが虫けらのように吹き飛ばされる

「聞いていないぞ…!なんだこの汚染物質達の強さは…!」

兵からの悲鳴を聞きながらも魔族達は次々に突っ込んでいく

だが…


ドゴォオオンッ!!!


大型ミサイルの一発の発射を止められなかった魔族達

力に限りのある魔族が少しずつ数を減らしていき、勢いがなくなり始めた

単体で勢いだけで突っ込んで行くのはただの無謀

それでも魔族は命を惜しまずに連邦を襲い続ける


「少し…キツイかな…!」

そうチサトが言った瞬間であった


ズゴォッ!!!


油断をしていたチサトは近接兵によって足を取られ、地面に倒れこんでしまった

「まずいッ!!」

そう思った瞬間


ドンッ!!!


倒れこんだチサトに向かって放たれた弾は全てを避けきれずに足に直撃した

「ぐッ…!」

そのままバランスを崩したチサトは前のめりで地面に滑り込む

なんとか起き上がろうとするが目の前に突き立てられたフェイズガンに息を飲むしかなかった



「チサト!!!」

ノエルはチサトが撃たれた事に、はっと気が付いてチサトを一瞬探してしまった


ドンッ!!!


放たれた弾はノエルの右肩を貫通し後ろの魔族に直撃した

「よし、邪魔な紋章術師を先に当てたぜ!」

兵が自慢しながらもう一度ノエルに銃口を向けた

ノエルは右肩を押さえながら、哀れみの眼差しで兵を見つめた


『ロックレイン』


ズドドドドドンッ!!!


ズドドドドォッ!!


ズガァアアンッ!!!


ノエルを中心とした一帯に岩の雨が降りそそぎ

魔族に大きな被害はないが、生身の人間に受け止める事はできずに直撃していく

そのままノエルがその場で倒れこむ

「おっと」

ボーマンが倒れるノエルを支え、ニカッと笑って見せた

「このままじゃ出血多量で死んじまう

戦線離脱をお勧めするぜ?」

右肩を押さえながらも首を横に振るノエルはなんとか自分の足で立ち上がる

「おいおい、出血多量で死ぬなんて、無駄死にだけはよしてくれよ?」

ノエルが苦笑いをしながら周りを見渡す

「ひゃぁー危なかったー!」

チサトが岩と岩の間から顔をひょっこりと出して目をパチクリさせた

ノエルは安堵の笑みを浮かべるとチサトの元へ走っていく

「そういうことかー…」

ボーマンは息を一度大きく吸い込むと目の前で

どんどんと押し上げてくる連邦に向かって突っ込んで行った





「鳥の分際で我々に勝とうなど無駄なのだよ」

マグライトが剣を抜き、素早い身のこなしで次々に魔族を蹴散らしながら

ジーネに向かって刃を振りかざす


ガィン!


ジーネはぎりぎりで身を引いて右手で剣を受け止めた

「太刀筋はクロードのほうが良かったと思うぞ?」

それをマグライトは引き抜こうとするが…

「貴様…!」

逆に無防備になったマグライトは後ろからの魔族の攻撃に気付くのが遅くなった

魔族の振り上げた棍棒が目の前に迫る


ドンッ!


マグライトは避ける事を不可能と考え、素早く腰からフェイズガンを魔族に放った

その方向に撃ったせいで被害を受ける連邦の兵も多く

少し焦りを覚えながらジーネに向かってフェイズガンを向ける

「…化け物が…!」

目の前にいるのは空を覆う金色の魔鳥

炎をまといながら周りを圧倒する

その姿を見た連邦の兵のほとんどが恐怖で動けなくなってしまった

そう…あまりにも存在が違った

神かのように空に舞う鳥は魔族達ですら一瞬緊張が走ってしまうほど…

マグライトもただただその姿に勝てるとは到底思えなかった



「アースホープ試作型の発射を許可する」



周りの兵達は驚きを隠せなかった

『それ』はエクスペルに来た反連邦組織などと戦った際に最後の切り札としていたモノ

まさかエクスペルを守るためのアースホープを魔族に向かって放つとは思えなかった

もし、打ち所が悪いと星が消滅する

通信機から声が響く

『マグライト指揮官…!これはこの星で使用は禁止されています!』

だがマグライトは目の前の光景に怒鳴るしかなかった


「構わん!星さえ消滅させなけなければ問題ない!!」


指揮能力がなくなってしまっているマグライトはただただ怒鳴る

「許可が下りないのならばここの連邦の兵全てを棺おけ送りにしてやる!!」

兵達はただただ黙ってマグライトの指示を待った

『申し訳ありませんが、指揮官であろうとも条約違反は守っていただきます』

その言葉にマグライトはおかしな笑みを浮かべて通信機を地面に叩きつけた


「くははッ!我々の勝ちだ!」


そう言ってマグライトはある装置を取り出し、徐にキーボードで打ち込んでいき

その間マグライトを守る兵達が次々に地面に伏っしていく


「よく聞けジーネ!!

これからアースホープの威力を見せ付けてやろう!!」


マグライトはその装置で宇宙圏にいる戦艦の下に装着してあるアースホープを遠隔操作した

『ッ!マグライト指揮官!!今すぐお止めください!!!』

アースホープの制御を全てのっとったマグライトは徐にラスガス山脈に指を差した

その途端



ズギャァァァァアアアアアアンッ!



ラスガス山脈を中心とした一帯を軽々と吹き飛ばし

星自体を揺るがす

『マグライト指揮官!!お止め下さい!!

もう一度星に撃てば軌道が変わる恐れと、消滅する恐れがあります!!!』

何も聞かなくなったマグライトはただただジーネに向かって歩いて行った


「次はここだ!!」


その様子にジーネが前に出た

「今のを…もう一度撃つつもりか…?」

ジーネも流石に恐れを感じていた

聞く限りではあと一発で星が消滅する

魔族が消し飛ぶのは構わない

だが…この大地を消されるとなるとジーネは連邦に手を出すわけにはいかなかった

「どうすれば…どうすれば、それを撃たない」

マグライトは嘲笑しながらジーネを見つめる

「そうか!!怖いか!!この星が消えるのが怖いか!!クハハ!!

私は元々この星などどうでも良いのだよ!!


なら降伏でもしてみせろ!!!」


それは魔族の負けを意味をする事

だが…星を消滅させてまで勝つ事に意味がないことを知っているジーネは数秒固まったが答える


「降伏させてもらう」


あまりに呆気ない終わりに魔族、兵士共々動揺を隠せなかった

魔族はジーネの考えを理解し、身を引く

それに変わって兵士達は調子に乗って雄叫びをあげた

「そうか!クハハハ!!こうも簡単に降伏するとは!!情けないものだな!!!

ジーネ!お前には後で魔族達の始末書を書いてもらう!

その後にじっくり考えてやる!!」

侮辱の言葉を浴びせられる魔族達は沈黙する

ジーネが頷きマグライトに歩み寄った

「構わないが…条件をつけてもらう

投降するのは私だが、他に人間で魔族側に付いていた者達の罪をなかった事にしてもらいたい

そして勝手だが他の魔族をそっとしておいてもらいたいのだ」

その言葉にボーマン、チサト、ノエルが驚きの表情で立ち尽くす

「おいおい…!ジーネ!!いいのかよ!!」

ボーマンの言葉に頷くジーネ


「これ以上母なる大地を傷つけたくない」


よく考えればここで降伏しなければ狂ったマグライトが星を破壊しかねない

「ボーマン、お前も死ぬのなら家族と一緒が良いだろう?」

ジーネの言葉になんとも言えない悔しさと、怒りがこみ上げる

「降伏した父親なんて見たくないだろ…!普通は!」

それでもジーネは笑みを浮かべて手かせをつけられて連行された

「条件を全て聞き入れるが、お前は地球の生体実験に参加してもらう

貴重な魔族王だからな!クハハ!!!」

マグライトがクロスへ連行される途中で笑いながらそう言うが

ジーネは表情を変えずにクロスへ向かう


「これが運命なら私は従う」


ボーマン達はやるせいない様子でジーネの後に続く





---クロス城---



「さて、王と女王よ…ご立腹しているのですかな?」

牢に入れられていたクリスとセリーヌはまるで捕虜かのように兵に連れられてジーネ達の前に姿を現す

「どういう事…ですの…」

セリーヌが目の前の状況に動揺するしかなかった

ジーネが拘束されているという事は魔族は敗れたのだろうが、ボーマン達まで拘束されていた

「この者達は魔族に寝返ったのだよ

私らは罪を許したが、この国の罪はある筈

さぁ、寝返ったということは死刑…しっかり裁いてもらおう」

この事を分かっていてマグライトは交渉に応じていた

王が女王の仲間だとしても待遇するような真似が許されるわけがない

ボーマン達はただただ悔やむ他なかった


「そして今からアースホープを放つ」


その言葉にジーネが身を乗り出す

「どういう事だ!!魔族はそっとして置くといっただろう!!」

マグライトは頷いた


「撃つのは魔族の死体だ、まぁ、区別はつかないが…

アースホープを作ったのがこの星のレオン博士とノイマン博士らしいな?

こんな形で使ってもらえて光栄だろうに」


ボーマンが歯がおっかけるのではという程食いしばって目を見開く

ジーネは今にも爆発しそうな表情でマグライトに飛びつこうとするが…

クリスとセリーヌに銃口を突きつけた


「どこまで…!卑怯なのだ…!」


ジーネは壊れそうな理性に歯をむき出して拳を地面に叩きつける

その卑怯さにボーマン達が今にもマグライトに突っ込み損ねていた

セリーヌが叫ぶ


「私達はどうなっても構いませんわ!!その男を消してくださいまし!!!」


その言葉が早ければ何かが変わっていたかもしれない…


「遅い」


眩い光が外から溢れると…


ズギャァァァァアアアアアアンッ!




星が…この宇宙、スターオーシャンから一つ…減る…






はずだったのだが…









---エクスペル護衛戦艦---




「マグライト指揮官!

アースホープが地面に直撃する前に消滅させられました!!!」


戦艦にワープしたマグライトは一瞬頭の中が真っ白になった

星を消し去る威力のビーム砲をどうやったら打ち消せるのか…

「モニター出します!!」

クロス平原が映し出されるが…

一つの影以外は魔族は息絶えていた

その一つの影…

連邦の乗組員が全員目を見開いて画面を見つめた


「魔族です!!!


人の姿をした…!

竜を背負った魔族ですッ!!!」









*こめんと*



ここまで読んでくださってありがとうございます!

大変話しが長くなってしましました。

なんとも濃い内容でお送りしましたが、ここまで長くなるとは…

少しは削ったつもりだったのですがね…;

それでもこの章はまだ続きます。


あまりにも人間の悪を感じてしまうお話です

連邦が近代武器で魔族を殲滅していく…

都合が悪くなると、恐れを感じればどんな手でも使う

あのアースホープでさえ…

試作で使う事が限られている筈のモノが守るべき星を撃ち滅ぼす

怒りとかそんなの麻痺して、目から血でも溢れそうなジーネやボーマン達

消える筈だったエクスペル

それを救ったのは…竜を背負う人の姿をした…者


本当にまったりですが、頑張っていきたいと思いますが

更新が滞ってしまう場合が多いと思います

それでも完結は約束致します!


こうご期待!!!




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