STAR OCEAN Sanctions of God







第九章 







第二部  






---クロス王国---






「ご報告です…ランガス山脈方面から魔族の群れがこちらに向かってきています…!」

クリス王は頷き、戦いに備えるように伝える

セリーヌがやはりどこか寂しげな表情でテラスに出た

クリスはセリーヌの横で遠くを見渡す

「私は…この戦いをしっかりとこの目に焼き付けますわ…」

クリスは頷いて遠くに見える魔族達を見つめる

予想以上の魔族の軍勢が押し寄せている事に不安を隠せなかった

「こちらの兵力も現時点でなんとか1万人…」

魔族が全部隊で来るとすると、小さな村を含め全ての町からクロスに避難、集結し

ある程度戦いに備えているが…

ラクールからの兵を呼び寄せてもやはり時間と対立問題で集まるに集まらなかった

クリスは不安に押しつぶされそうになるが…

「決心した僕らがここまで不安なんだ…クロスの人々はもっと…」

セリーヌは下の人々を見て、唇を噛み締めた

リヴァルによって家族、友人、恋人をを失い嘆き苦しむもまもなく…何万もの魔族と戦う

どれ程の不安と…憎しみを抱えているのだろう…

「ありゃあ…ラクールの三倍はいそうだな…約6万ってところか?」

ボーマンがいつの間にかセリーヌとクリスの後ろに立っていた

「ボーマン…久しぶりですわね、元気そうで何よりですわ」

クリスが頭を下げて、ボーマンに手を差し伸べる

「クロス王、クリスだ

セリーヌの戦友が一緒に戦ってくれるなんて…心強いよ」

ボーマンは差し出された手を気前よく握ってニカッと笑った

「覚悟は…ついてんだろ?」

クリスは頷き、再び遠くを見つめた

「勝とうが…負けようが…僕は後悔しない」

ボーマンが瞳を閉じてその言葉を胸に刻む

「あぁ…そうだな」

セリーヌが心配そうにボーマンを見つめた

「ボーマン…家族は…?」

ボーマンは一息つくとポケットに手を突っ込んだ


「俺は後悔なく生きてきたつもりだ…

あいつらが幸せになれるんなら…命はおしまねぇよ」


セリーヌはうつむいて涙をにじませた

こんな決心をしているのは…ボーマンだけじゃない…

それにボーマンも生きたいと絶対に思っている筈だ…

エディフィスでもあんなに家族を思い、今でも本当に家族に尽くしている

それなのに…

セリーヌは下で動いている人々を見つめた

そしてもっと苦しんでいる人もいる…

「私…少し下の人々の所に行ってきますわ…」

クリスとボーマンは止めようとはしなかった











---クロス元城下町---


瓦礫と化した町ではあったが、人が最低限生活できる設備は既に出来上がっていた

そんな中…

兵に戦う前にと気遣って出す料理場で…

「ちょっと…!女王様!そんな事しなくてもいいですよ!」

首を横に振りながら料理をおぼつかない様子で振るうセリーヌ

「女王だけが楽しているなんて、私は納得いきませんの」

周りの者が心に何かくるものを感じ、皆頭を下げた

「あら…?セリーヌ…さん?」

セリーヌが振り返ってみるとそこにはレナの母、ウェスタが顔を除きこんでいた

「あ、レナのお母様…!お久しぶりですわ!」

ウェスタも料理を一緒になって作っている様子でフライパン片手ににっこりと笑っている

「本当関心しますよ、流石レナと一緒に旅したお仲間さんですね」

なぜかウェスタがレナの幼少時代を話し始め、昔お世話になった人などとの再会

様々な出会いや話を聞いている間に数時間が経っていた

町の今の人々、そして他の村の人たちの不安などを知ることが出来きたセリーヌ


「私は皆さんのお顔を見て、話を聞いて…

本当に決心することができましたわ

皆が笑顔で過ごせる…そして安心して生きることの出来る町や村にするために

全力で皆さんと一緒に兵の人たちをサポートしますわ!」


もう、そういう女王である事を知っているかのように

皆は否定したり、止める者はいない

ただただ拍手をして皆笑顔でいる

セリーヌはどこか穏やかな表情であった


パシャッ!



「流石セリーヌ女王!人間の鏡ですね!」


そこにはカメラ片手にガッツポーズを決めるチサトが立っていた

まさかの再開にセリーヌがチサトの元に駆け寄る

「久しぶりですわね!」

色々と聞きたい所だが、セリーヌはフライパン片手に料理を作っている最中であった

チサトも落ち着きなく周りを見渡して他の人にぱぱっと意見を聞きながら

「私はこの町の人に色々取材している所なの、そしたら女王様である筈のセリーヌがいたから

少し色々と見せてもらいました〜!

女王様の良い意見を聞かせてもらったわ!ということで私はまた取材に行くから!じゃ!」

忙しそうにチサトが駆けて行った

一瞬唖然としていたセリーヌも笑顔になった


「この場所には私の大切な全てが…つまってますわ…

絶対に…負けませんわよ…!」














---裏路地---


「はぁ…」

チサトはセリーヌと別れた後、そそくさと落ち着ける場所に座りこんでいた

メモ用紙をめくりながらただため息をつく

「やっぱり…セリーヌの魔族反対の裏には魔族王の友人がいたか…

まさか魔族王ジーネとセリーヌに接点があるとは思わなかったわ…」

色々な情報を聞く限りでは把握は出来てきた

「実際は直接聞ければ良かったんだけど…」

この砦の人々を見る限り、明らかに絶望の淵に立たされているのも確かで

「どんなに魔族が悪い奴ばかりじゃないと言っても…

やっぱり魔族殲滅反対を宣言しちゃったのは痛いのよね…」

そのせいで兵の数も少ない状態にある

「今の戦力と魔族の戦力があまりにも違う事は公には発表していないみたいだけど…

まぁ…発表したところで…良いことなんてないか…

裏では連邦が来るような事言ってるけど…

多分セリーヌは断っただろうし…」

ペンを指で回しながらんーと唸るチサトはなんとなくノエルの事を考えた

「彼なら…どう考えるのかな…」

そんな事を考えているうちに指先が震えてきた

この町で聞いたこと…見たこと…不安で絶望に溢れる人々

「私も…全力で戦って…情報を持ち帰らないといけない…」

でも…この戦況

膝を抱えて肩を震わせた

「死にたく…ないな…」

































---広場---


「作戦は先日の通りだ!!もう一度作戦の内容を確認する!

先手はクロス、ラクール騎馬隊だ!

その後に続き、クロス、ラクール所属兵は一直線に横に並び!

後ろに一般兵!紋章術師!

人数と一般兵が多く混ざっているせいでしっかりとした隊は組むのは難しいが

左翼右翼を絶対に取られないようにしてくれ!

空中を飛ぶ魔族はこの砦から大砲で撃退する!」


作戦隊長が作戦を説明している中、ボーマンは煙草を吸っていた

「あの、すいません…あの隊長さんは何を言ってるんですか?」

一人の男性がボーマンに話しかけてきた

ボーマンは少し見覚えがあった

「確か…お前は…アーリアの奴だよな?レナとディアスの幼なじみだっけか?」

アレンは思い出したように顔をほころばせる

「あ…!確かレナとディアスのお仲間だった人ですよね?」

ボーマンは頷いて答える

「あー…っと?んー、一応作戦ははっきり言って…特攻だ」

アレンが首を傾げる

「一応陣っぽいのは組んでるが、まぁ…俺もそうだが、一般の兵でもない奴が多すぎる

だから普通の兵が取るような陣を組めないんだ」

騎馬兵が見積もっても1000程、本当に兵士の職に就いているものは3割弱

他は村や町の青年や大人達、中には腕に自信のある女性など

紋章術師も全体から見ると老若男女で1割程を占める

ボーマンが少し息を付いて煙草を手に取る

「そいう訳で…横に並んでばーっと突っ込むしか方法がないんだ」

アレンがまた首を傾げる

「なんで横なんですか?」

ボーマンは手を大きく広げて説明する

「どうだ?真ん中に集中して魔族を倒して行ってみろ…

あっちは幾万の魔族だ、真ん中だけあかしても横が行きたいだけいっちまう

そのまんま囲まれて終わりだ

それに相手は魔物じゃない…一匹一匹がボスクラスの魔族達だ…

簡単にゃ倒せねぇな」

アレンが少し不安そうに剣を握り締める

「出来るだけ横にならんで…食い止めるんですね?

でも、少しでも乱れたらそこから魔族がなだれ込む…

あれ…空を飛ぶ魔族が多い場合はどうするんですか?」

ボーマンが腕を組んで首を横に振った

「いちいち考えないほうがいい、今を見て、ただ戦うしかないんだ」

アレンは唇を噛み締め、この兵力じゃ勝利がないことを確信した

でも、この砦にはクロスの人々がいる

「少しでも…長く精一杯戦いましょうね…!」

ボーマンはニカッと笑って拳と拳を叩きつけた




















---明け方---




魔族の群れが迫る中、1万の兵が横に並んで定位置につき始めた


「あれ?ボーマンじゃなーい!ラクールに続いてご苦労様!」

チサトがなぜかカメラ片手に混じっていて、ボーマンは苦笑いした

「お前もよくあんな最前線にいて助かったな…」

ラクールでの殲滅作戦の際もこの二人は会っている

チサトは最前線で戦いながらその詳細を事細かくエクスペル全土に知らせた

その際はラクールが魔族と圧倒していた…

後々またノエルの取材に明け暮れていた様だが

「今回は…生き残れないかもしれないぞ?」

チサトは元気に頷く


「いいわ…!最前線で戦って死んだ暁には最前線で私死す!!!

と新聞に大きく載せてもらうつもりよ!!」


チサトのやる気を見てボーマンは笑うしかなかった

「いいなそれ、俺も『リンガの最強お医者さん死す!』という記事でやってもらいたいな」

チサトとボーマンはただ冗談を言い合いながら笑って遠くに見える魔族の群れを見つめた

ボーマンは目を瞑る


「ディアスがいてくれれば…少しは違かったんだろうな…

行ってくるぜ…ニーネ…エリス…マリ…」























「ぜんたぁああいッ!!!!

進めぇええええッ!!!!」





*こめんと*


戦争…難しいですね

女王の権限、王の意思

悪い方向へ進んでしまった歯車

魔族と共存することはそんなに悪い事なのだろうか…?

そんな考えを皆が皆するはずもなく、敵視する魔族を一掃することを考える

そう…間違ってはいない

その間違っていない魔族との戦争

ラクールでも苦戦を虐げられた戦い

相手は魔族王ジーネの率いるボスクラスの6万近くの軍勢

こちらは寄せ集めの1万の兵

皆が勝てぬと分かっていながら歩みを止めず戦う



と、はてさて…

皆の色々な不安を背負うセリーヌとクリス

遠い家族を守るために決心を決めたボーマン

命をかけて人々に真実を伝えるべく戦うチサト

色々な気持ちが交差する中、戦争が始まってしまいます

勝てば?負ければ?

違います

誇りと、大切な人の為に戦います


こうご期待



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