STAR OCEAN Sanctions of God







第七章 







第五部  




---保護施設及び保護病院---



「いやぁあああッ!!!」

レイアの奇声

保護施設の密室で叫び続け、泣き続けているというレイア

ヴァンは部屋に入って実感した

レイアは予想以上に壊れ…

ずっと錯乱し続けているということを…

涙で目は腫れ上がり、顔がより青白くなっていた

暴れだして自虐行為にならないように両手両足が台に固定され、身動きが出来ない状態である

「余計…ひどくなってるな

さすがに舌とか噛み切ったりするかもしれないから顎固定するように言っておかないとな…」

面識のある警備隊員の一人が付き添いで来ていて説明をしてくれた

「どういうことだ?ただ暴行を受けただけじゃないのか?」

警備隊員が少し引き気味でヴァンと面と向かって話す

「聞いてもこの辺りを吹き飛ばすなよ?;

一昨日に街中で男が気絶した状態のレイアちゃんを背負ってたんで

職務質問も兼ねて事情聞いたらビンゴだったわけよ

それで気絶した状態…というか目は開いてたけど死んだ魚みたいな感じだったレイアちゃんはお前の名前をずっと言ってたんだぜ?

まぁ、変な薬を大量に打たれたらしくて、起きたらずっと錯乱状態ってわけだ

一応言っておくが、保護した後検査して異常はなかったからな」

ヴァンは頭が真っ白になっていた

「その薬はどうすれば治るんだ…?」

警備隊員は首を横に振る

「もう多分脳の方はやられちゃってるから…

薬の効果が無くなっても幻覚とか幻聴とかが残ったり、精神障害になるのは確かだ」

ヴァンは警備隊員の言っている意味がよくわからなかった

「俺は…裁判長に…幸せにするように言われたんだが…

今のこいつにとって…何が幸せなんだ…?」

警備隊員は難しい質問に唸って

「俺も裁判長はこれを把握して言ったと思ってる

この状態のレイアちゃんを幸せにすることなんて不可能に近いから…

まず幸せなんて感情自体なくなっちゃってるだろうし…」

裁判長はヴァンを甘やかしたわけじゃなく

本当にヴァンに罪という物を分からせたかったのだろう

ヴァンはただただ錯乱するレイアの姿を見つめ続けていた

そんなヴァンを見てどこか悲しそうな瞳で見た後に肩を叩く

「まぁ、後はこの部屋はお前の好きに出入りしていい

見てるこっちも可哀想で仕方がない…

言ってくれればある程度のものは用意する…頑張ってくれ」




こんな状態のレイアを…何年も…何十年も…

治るまで…それか

レイアが苦しみながら死ぬまで永遠に見続ける?

「生き地獄じゃねぇか…」

ヴァンはこの時点で相当頭を抱え込んでいた

「『お前がレイアを100年経っても本当に幸せに出来ないのなら、それはそれで構わない』?

100年?俺はそれまでに精神崩壊する自信はあるぞ…」

裁判長の下した刑、レイアを幸せにするという課題

まず幸せを感じる基礎から治していかなくてはならない…


「会わないで笑顔のままのお前だけを知っていればよかった…

これが…俺の罪」


とにかくヴァンはレイアの錯乱した状態をずっと見続けた

「やめてくださいッ!!!近寄らないでぇ…ッ!!!離してくださいッ!!!!」

天井に叫び続けるレイア

手首や足首は血が滲む程になっており、暴れ具合がよく分かった

「こいつは…まだ悪夢を見続けているのだろうか…?

だったら…」

暴行を受けたレイアはそのままの状態で時間が止まってしまっている

そう思ったヴァンは台に固定された錠を素手でもぎ取った

「これがあったらまだ押さえ込まれているってレイアが思っちまう…」

錠を外されたレイアは逃げるように台から降り、部屋のドアを開けて逃げようとノブを引く

が、鍵が掛かっている

その事に焦ったのかレイアはドアを叩く

「ここから出してくださいッ!!!!」

そんなレイアを見るヴァン

胸が苦しくてしょうがなかった

近寄ろうとした瞬間


「助けてッ!!!ヴァンさんッ!!!」


ヴァンは足を止めた

目の前にいる俺を見ながら恐怖し、俺の助けを呼ぶ

怒りと悲しみがこみ上げてくるのが分かる

ある程度抑えながらレイアに聞く

「誰だそいつは…」

レイアは肩を震わせながら答える


「私の恋人さんですッ!!!ヴァンさんが来たらあなた達なんか楽勝ですッ!

この辺一帯吹き飛ばしちゃいますッ!!!」


ヴァンは口元を緩めた

混乱してるのに何をデタラメいってるのか、恋人扱いだ

それに俺の性格を分かってる

何故か胸の鼓動が高くなっているのが分かった


でもこれ以上近づくのはまずい

ヴァンはゆっくりとレイアと逆の方向を歩いて行く

「……ッ」

レイアはまだ警戒している様子でドアノブを開けようとしながら後ろを見続ける

「これじゃ…らちがあかねぇな…」

そんな感じで数時間格闘した後、疲れきったレイアはその場で倒れこんだ

「はぁ…はぁ…」

それでもまだ床越しにヴァンをにらみ続けるレイア

睨まれるヴァンは目を反らし、天井を見ている

少し警戒が解けたのかそのまま気絶してしまった


その間レイアは栄養剤を注入されたり色々と施される

ヴァンは今日のレイアの様子を施設長に話し、拘束することをやめ、ヴァンに面倒を見てもらいたいと言ってきた

レイアは精神を狂わせる薬を大量に打たれたせいで体は蝕まれ

急激な疲労と、脱水症状により少し危険な状態にあることが分かり

少しそこを考えながらヴァンは寝ずに

新しく置かれたふわふわのベッドの上のレイアの寝顔を見ていた

なぜか…吸い寄せられるようにレイアの唇を見つめる

「きゃ…

きゃぁあああッ!!!!!」

目の前のヴァンに驚いて一気に瞳を開くレイア、ベッドから後ずさりしながら壁にぶつかり

逃げ場のない様に悲鳴をあげ続けるレイアはベッドの角で縮こまり、ヴァンを睨み続けていた

一気に気持ちが曇るヴァン、そのまま部屋から飛び出した

鍵をかけたヴァンはドア越しにレイアの苦痛の叫びを聞き続ける

「開けてくださいッ!!!なんでもしますからぁッ!!!!あけてぇッ!!」

ヴァンは抑えようのない怒りと悲しみをただ歯を食いしばり、拳を作る事で発散した





幾日もレイアの様子を伺ってきたヴァン

回復の兆しが全くみられないレイア

ヴァンはストレスで毎日屋上から叫び声をあげ続けている

苦痛で仕方がなかった

施設長からも…

「回復の兆しが伺えません…

恐らく一生涯あのままの状態で錯乱し続けるでしょう…

それと…レイアさんの体が後何日持つか分かりません…」

ヴァンはレイアと無理心中でも図ってやろうかと思ってしまったが…

負けるのが嫌だった

「レイアだけでも…せめて…幸せにできないのか…」




「近寄らないくださぃッ!!!いやぁあああああッ!!!!」

ヴァンはそんなレイアをただただ見つめる

無気力になっているのが分かった

もうどうでもいい、叫び続けるレイアを救えない、幸せに出来るはずがない

一週間程でこんな事を思っていたら、100年なんて考えたくもないし、数年も考えたくなかった



日に日にレイアはすぐ気絶するようになり、危険な状態になっている

いつのまにかヴァンは寝ているレイアを抱きしめるようになっていた

「何故か落ち着く…リヴァルの言ってた通りだな…」

リヴァルから女の子の扱い方?を一応教えてもらっていた

優しくレイアを包み込む

すると時々レイアは寝ながら微笑んでくれる

それがたまらなく心のゆとりになって、ヴァンはレイアと触れ合う事を幸せと感じるようになっていた


「ねぇ…どうして…?どうしてあなたは私をいじめないんですか?」

そうレイアが聞いてきた時は何か吹っ切れる物があった

「お前が大切なやつだから…守ってやりたいんだ」

大切、そう大切ヴァンはレイアの髪を撫でた

引き気味のレイアはどこか頬を赤らめていた

「なんででしょうか…温かい…」

そう聞いてレイアを始めて真正面から抱きしめた

驚かずにレイアはヴァンを抱きしめ返す

「あたた…かい」

そう言ったきり…彼女は起きなかった


短い幸せだった?

俺が幸せでもなんの意味もない

あいつが老衰するまで笑っていられるようじゃなくちゃ…

罪とかじゃなくて…それが俺の願いだ…


施設長によると彼女は意識不明のまま起きずにいる…それはもう三日程…

注入された薬の量が予想よりはるかに多く、体を蝕むスピードが速く、気絶する感覚が短くなり、

麻酔が効かなくなってきていた矢先の事であった

「少しはまともかと思ったら、こんな体にされちまってるとはなー…

俺の罪滅ぼしが永遠になっちまうよ全く…」

ヴァンは冷静でいられた、レイアの死は確実に近くなっていて、もう起きないだろうと言われた

有余が無限にあると思われたのはヴァン自体の寿命であり、レイアは衰弱しきり、今にも死にそうな状態

レオン達を送り出したばかりなのに自分が情けなくなってきてしまったヴァンは歯を噛み締めた

レイアが元気だった頃を思い出し、ベッドで横になっているレイアを起き上がらせて抱きしめると、どっと涙が溢れてくるのを感じたヴァンは喋りだす


「俺はお前の笑顔と、頑張って踊る姿が大好きなんだ。

だから、踊り、見せてくれよ…?

大好きなんだよ、お前の踊り

いや、踊りなんてお前のしか見たことはないが…

それでも大好きなんだ

大好きなんて俺には似合わねぇけど…

本当に…可憐で、優雅で美しくて…まぁ、お前が愛しくて仕方がないんだ

愛しいってのはプリシスから教わったんだぞ?アシュトンが愛しい愛しい言うから意味聞いたら

好きすぎてしょうがないんだってよー?知ってたか?」






「ぅん…しってました……ょ」


何故か俺は普通に答えられた


「俺が愛しかったのか?」


レイアは目は開けず小さな口で紡ぎ出す


「ろーずから…たすけて…もらって…から……ずーっと…ずっと…」


汗か?俺の顔が、水浸しで、前が見えない、前が…前がッ

「もう、喋るな…」

そう俺はいつの間にか言っていた、こいつは今偶然の奇跡の中にいるのだと感じた

「俺はお前が大好きで…幸せにだな…したくてッ」

レイアは小さく微笑む、頬がほんのり赤くなる

「ヴぁん…さんが…そんなこと……いってくれる…なんて……うれしい…です」

夢が叶ったと喜ぶレイア…

ヴァンが悪化するから喋るなを連呼しながらレイアをゆっくり抱きしめる


「ぁふ………わたし…しあわせです…」


ヴァンがもう何も言わずに頬をすり寄せる


「だって…ひどいこと…されたけど…

おきたら…





こんなに…しんぱいしてくれる…ひとがいて…





わたしを…だいすきって…いってくれるひとが…いるんだから…わたし






しあわせ…です








「やめろ、もう喋るな!!」

ヴァンがレイアの唇を奪う

「ん…ぷぁ…んん」

レイアの頬がより赤くなり、表情がより緩くなるが、レイアから離そうとはぜす

そのまま…ずっと…ずっと…ヴァンが離すまで瞳を閉じて笑っていた


「………レイア…」


レイアは力が抜けたようにうなだれ、笑顔のレイアがヴァンの胸に収まった

冷えていくレイアを抱きしめるヴァンは妙に冷静で…

ただ瞳を閉じていた


「気付いたんだ…

どんなにお前がさっきまで幸せでも…


俺は…幸せにはなれないんだな…」


「まず…お前はちょっとしか幸せになってないだろう…?」










ヴァンはレイアを見つめるとある言葉を思い出す




「ロストミスティック…王呼の秘法…」


なぜか無意識のうちにそれしかないと考えていたのだ


静かに永眠したレイア

人として行ってはいけない事…

部屋中に様々な紋章や記号が現れ、大地を揺るがした

眩い光とともにヴァンから光が溢れる

ヴァンは何故か無意識に魂のほとんどをレイアに移す

微かに残っていたレイアの魂がゆっくり揺さぶられていく

「ぐぁ…!!」

あまりの疲労感にヴァンは意識を失ってしまった





「ヴァン…さん」

もう夜になっていたようだ、ヴァンは起き上がると、死んだ筈のレイアが微笑みながら迎えてくれた

相当な立ちくらみを覚えるヴァン、今にも意識を失いそうな疲労感がまだ続いている

「そうか…魂を…レイアに分け与えたのか…」

レイアは肩を震わせて涙を流していた

「どうして…そんな無茶をするんですか…!」

なぜそんなことが出来たのかはレイアは聞かない

ヴァンはなんでも出来てしまうと考えているから…

ヴァンは少しうつむいて

「お前に…幸せに…なってもらいたかった…」

レイアは怒った表情で泣いていた

「ヴァンさんは馬鹿です!!大馬鹿です!!!」

なぜだかレイアの唇が欲しくて仕方がなかった

だが、近づけると脅えながら顔を引く…

「怖い…のか…?」

怖いのは仕方がないこと…

見ず知らずの男達に奪われたのだから…

レイアはうつむきながら頷く

「なら…ゆっくりだ」

ヴァンは自分の魂がほとんどない状態が感じられ、有余がなくなってきている事に気付き始めた

レイアを抱きしめ、手を絡める、脅えながらもレイアは嬉しそうにヴァンの瞳を見つめる

その表情にヴァンは心が奪われ、ゆっくり唇を交わす

「んん…ん…ぷぁ…ん」

レイアが愛しくて仕方がなかった

リヴァルは愛するなら本能のままにと…そう言っていたから…本能のままに…愛する事にした






「ヴァン…さん?」

レイアはヴァンの胸で眠っていた気がしたのだが、朝になり、残っているのは衣類だけで、そこには誰もいなかった。


「私は…悲しく…ないですよ…?

全然…悲しくなんか…ないですよ…

ぜん…ぜん…ぅ」

レイアは隣にあった温もりを確かめるようにそっとベッドに頬を擦り付ける

気が付けばベッドのシーツは濡れ、いつのまにか寝入ってしまった





---惑星ストロン スペースベース区裁判所---


「奇跡…というのは…こういうことを言うんでしょうね」

裁判長が微笑みの中でレイアを見つめた

「最近見たときはあなたの死を覚悟してヴァンを裁いてあげようかと思ったのですが…

ヴァンさんの命と引き換えに全快したわけですね?レイアさん」

レイアは頷く

周りの民衆が騒ぎ出した

「逃げ出したに決まってる!」

「早く捕まえにいけよ!!」

裁判長は報告書を読み上げる

「昨日の晩、今日の明け方頃、不意にレイアさんの部屋から消えています

転送系の機械は使えなし、区からは出られません

ありえるのはその場で何かしたか、フェイズガンMAXで分離構造を最小まで分解した場合の他と考えられません」

住民が黙り始めた頃にレイアは話し始める

「ヴァンさんは確かに暴力的な人かもしれません

私の知っている限りだと何個か星を破壊して、地球の連邦軍と対等以上に渡りあっていた事

ところ構わず怒って破壊しに行く人なんです。」

住民が退いた

予想以上の男だと知った途端空気が変わった

「でも、それはヴァンさんが言う主が命令したかららしいんです。

だから許される訳じゃありませんけど…

知ってると思いますが、ハイダがローズに襲われた時に人々を救ったのもヴァンさんなんです。

ヴァンさんは同情もするし、優しくもしてくれる

ただぶきっちょで腕っ節が凄い、でも優しくて格好いい人

それがヴァンさんなんです」

意思のこもった発言に無駄口を叩かなくなった住民

「もう多分死んじゃったのかもしれませんが、大きく私の中にヴァンさんがいることが分かったんです

それまでは私は錯乱状態で、精神崩壊して死ぬ寸前だったらしいんです…

魂を分け与えてくれたと言ってくれました

よく分かりませんが


私を命がけで守ってくれたんだと思います」




「行くのですか?」

裁判長がレイアに語りかける

レイアは両手にヴァンのガントレットを調整してはめ込んだ

「ヴァンさんの意思を引き継ぐのなら…

私はあの人達を追いかけたいと思ったんです」

裁判長は空を見上げた

「世界を救う任務らしいですよ

確か惑星エディフィス…」

レイアも空を見上げる

「間違った考えの主を倒して本当の自分に辿りつきたいって言ってました」

笑みの後、裁判長は一枚のカードをレイアに差し出した

「何かこの事件で星が変われた気がします

それに彼はちゃんとあなたを幸せな状態で来させた、命を張って

懲役20年で済むものを死んじゃうんですから…余ってしまうものがあります」

手渡されたカードはブラックカードで、値段が打たれていない

「世界が危機ならなおさら、この星がひっそりあなたとヴァンさんを応援します

だからこれを使えばお金には困らない筈です」

レイアは戸惑いながら頭を下げる

これからまずこの星をどうでようか考えていた所だったのだ

「ありがとうございます!有効に使わせていだきます!!!」







走っていくレイアを見ながら懐かしい過去を思い出していた

「世界を救う……懐かしい…

まだそんな人達がいるなんて…

他の星への転勤も考えていたんですが…

この世界も、この星も捨てたもんじゃないですね」

裁判官が扉から出てきて呼びかける

「ファーレンス裁判長お時間です」

頷くラティクスはどこかいつもより微笑んでいた







*こめんと*


本当に長くて申し訳ないです…!

私の想いを込めて書いたつもりです!

ひっかかる部分や疑問点はあると思いますが、

どうかそれはそれで、後々分かる事かもしれませんので

お楽しみに!

という事で!!次回の章はレナ・アシュトンです!

はてさて消えたクロードはどこへ?

おもいっきし戦うので

こっちのほうが気合を入れそうな勢いです!!頑張っていきます!



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