STAR OCEAN Sanctions of God







第十二章







幻想:事実










---クロード幻想地球 ある街の一角<数ヶ月前>---



ダンッ!!


僕は一瞬何が起きたか分からず…

右肩から強烈な痛みが走り撃たれたことを確認

『誰だ…』

事態を把握した僕は右肩を抑えながら小型のフェイズガンを取り出した

ぞろぞろと路地から出てくる男達

明らかに明確な殺意をもっている

『お前のような冷酷な軍人がいるから民間人がこんな苦しい想いをしなくちゃいけないんだ!!!』

『いつかお前の大切な物も!お前も皆殺しにしてやる!!!私たちの苦しみを思い知れ!!』

これが初めてではない…

数日前にも僕の自宅が襲われ、危うく暗殺される所だった

民間の間で僕は目の敵にされたらしい…

それでも連邦の威圧と口止めがあるために、容易く手は出せない…

だが命を惜しまずに僕を消そうとする異端な者達などだけは、どこからともなく溢れてくる…

今回も僕を影から警護していた者達が躍り出て事の収拾はついたが…


『ケニー少佐申し訳ございません…事を重ねるごとに敵対勢力が手ごわくなっているみたいで…』

中々の腕を持っていた警護兵が一瞬の油断で僕と接触する程の時間を稼がれてしまったらしく

撃たれた僕はすぐに応急手当を受けて病院へ搬送…

搬送される中…強烈な痛みで目の前が朦朧…意識が飛びそうだというのに…

僕は…


レナに会いたいんだ…

レナに…会いたい…


悔しくてたまらない…情けなくて…泣きたいと思うほど…

手を伸ばしても約束の場所から無情にも遠ざかっていく…

鎮痛剤と麻酔で目の前が真っ白になる……

レナに会うために僕は…今まで…こんなに…頑張って…

『レナ…』

そのまま僕は気絶した…






---連邦国立病院施設---


僕は治療ルームに入れられ、様々な処置が施された…

気が付くとベッドで天井を見ていて…

『息ができる…肺はやられてなかったんだ…』

右肩が少し痛みながら唇を噛み締めた

ふと横を見ると無惨に散った花束がそこにある…


僕は青ざめた


『はッ…レナ…レナ!!』

既に時間を見れば夜中を過ぎ、約束の時間はとうに過ぎていた…

それでも勢いでベッドから飛び出て無心で約束の場所へ向かおうとする…

だが…

ドアが開かない…一瞬混乱するが

これでも狙われている身…そして状況が状況で軍医も僕が錯乱する事も分かっていただろう…

完全ロックされた部屋のドアの前で僕は背を付けて大きなため息をつく

『…レ…ナ…』

あぁ…僕はまたレナを裏切ってしまったのだと…

仕事というだけで、どれだけ約束を守れなかったか…

同じ部隊だとしても僕とレナでは立場が違い…行う作戦が違ってくる

プライベートとして会うことは稀…

それはやはり同じ部隊で仕事を理解しているからこそのレナの気遣い…

『どうして僕は…いつもいつも…』

今回は久しぶりの再会で期待させて

連絡もよこさないという最悪な形で…

僕は自己嫌悪に陥りながら、自分の携帯を取り出し…涙を零した


電話450件、メール50通…


壁に背を着いてきりがない涙を拭いながら内容を確認する

全てレナから…メールに関しては…全てが『待っています』

時間が経つに連れ送られてくる間隔が短くなっていた…

『レナ…レナぁ…レナ……くそッ…くそぉ…くッ…うッ!』

ズガンッ!ズガンッ!!

僕は膝から崩れ落ち…床を拳が壊れる程にぶん殴っていて…

血が滲む拳は震えている


『…』

徐に床に落ちた携帯に手を伸ばすクロード

震える手でレナに電話した

こう嘆いている間もレナは悲しんでいる筈だから…

プー…

今の時間なら普通は帰っている時間

でも…


『クロー…ド…?』


レナはどこか意識がはっきりしていない様な声を放つ

声の後ろからは夜の約束の場所特有の音達が響いていた

冷たい風さえも電話で感じられる

クロードは胸が締め付けられる思いで口元だけ笑ってみせた


『レナ、ごめん』


ごめんは様々な思いが入り混じっている


期待させておいて、約束守れなくて…

こんな時間まで待たせて…

愛せなくて…

ごめん…


レナは電話の向こうでどこか笑っていた

そんな声が僕の心をまたおかしくしていく


『いいの…クロード大変な立場だってのは分かってる…

また今日もお仕事なんでしょ?

私まだ待ってるから…会えるかな?』


僕は既に涙腺が崩壊し損ねている

レナの子猫の様なか細い声…

元気に振舞うレナ…

半日近くをレナは同じ場所で待ち続け…

疲労と眠気、寒さでレナがどういう常態か想像ができた

それなのにまだ僕と会うために待ってくれる…?

体調を崩してしまわないか…もう…頭がいっぱいで…

どうしようもない自分を責め立てる


いっそ…レナに嫌われれば…と考えた


現実逃避以外の何ものでもない

”僕が嫌いになる”という選択肢が出ないのは…僕が甘いから…

でもそんな馬鹿げた理由は数秒で自己嫌悪へと変わる

レナに言えばいつも言い返された

クロードが私と同じ立場で考えて…と


それでも僕は逃げ出した…


『ごめん…また一ヶ月ぐらい会えないんだ』

レナはしばらく返答してこなかった

いつもなら…少し悲しげに返答する…

それすらない…僕はそんな時間を長く果てしなく感じた


『ねぇ…会いたい…

待ってるから…ずっと待ってるから…

来て欲しいの…』


少し涙声交じりでレナはポツリポツリと言う

僕は今すぐに電話を切りたかった

体が震え、唇をかみ締めて電話を握る手に力が入る

約束を破って…待たせておいて、さらに僕は…レナを苦しめて…

自己嫌悪で自分を覆いつくす中…レナは言い続けた


『会いたいの…クロードに頭なでなでされたいの…

ぎゅってされたい…壊れる程に愛してもらいたい…

わがままって分かってる…





それでも…私…』



プツン…

僕は電話を切っていた


『うああぁ…うあぁああああああああッ!!

あぁあああああッ!!はぁッ!…ぁあ…』


閉鎖された部屋で僕は泣き続ける…

どんなに再びレナから連絡が来ようと…

僕は気が狂いそうな程泣いていて…気付かないフリ…





---約束の場所---


レナは虚ろな瞳で携帯を見つめていた

数分程レナは無心でクロードに電話をかける

それでしか今の不安は消せない…


『私捨てられちゃったの…?』


レナはせっかくこの日のために買った服を涙で濡らす…


『それでも…私…待ってるからね…

クロードと会えば…こんな不安…すぐに…消えるんだから…

クロー…ド…』


放心状態になりながら眠気と風邪特有のダルさ…そして寒さでレナは倒れ

影ながら警護していた隊員達に保護され、レナは一ヶ月近く入院した


その日から僕はレナとは恋人なのかもしれないけれど…何か足りない関係に僕達は様々な不安を抱え…

それでも僕は狂ったように連邦の為に働いた

何かを見つけるために…




私は泣いていた

クロードの心情を…優しさを…苦しみを共有した私は…

ただひたすらに締め付けられる胸を押さえる

「周りからいつからか気遣われて…

休みを多く貰ったり…クロードと会えなくなって…

私は恋人でッ…

一番最初にクロードが危険な目にあってるってッ…

気付かなくちゃいけないのにッ!」


自分を責め立てる


「それなのに私はただクロードを待つしかできなくてッ…

勝手に傷ついて…求めるしか出来ずに…無力でッ…

嫌われたくなくて…怯えてッ…」


どうしようもない自分を殺すかの様に次々と自分責めた


「エディフィスに行くことを決めても…

私は助けられてばかりッ…」


私も私なりに頑張ったかもしれない…

でも私はそんな自分に満足なんか…


できないッ!










---幻想世界---



ラクールの闘技場を崩した様な場所で…

沈み始めた夕日を背に二人の剣士は戦っていた


「どうしたクロード…その程度か…」

ディアスの威圧のある一振り一振りの斬撃

ガィンッ!

キィンッ!!

「くッ…」

連邦で1、2を争う強さを誇ると言われるようになったクロード

だがそんなもの連邦という限られた中で必要な技術だけ…

それ以外は忙しさで怠っていた

ディアスはあらゆる角度から、あらゆる方向から攻めてくる

無駄な動きなどほとんどなかった

相手が本当のディアスだとは分かっている…

この世界に来てからオーラが一気に変わったのだから…

「さすがだなクロード…この世界に来れば自らの精神世界に負ける筈なのだが…

歪む事無くこの世界に立ち続けている…

志はよしとしよう…

だがレナがいなくなってからのお前は極端に弱い…」

悔しさで焦りを覚え始めるクロードは…


キィンッッ!!


軽々オーマをはじかれる


その時…私は駆けだした


「たぁあッ!!」

オーマをはじかれ、クロードに一撃を加えようとディアスが動くと同時に

空間の歪みから現れたレナがオーマをしっかりと掴みとり、一歩踏み込んでディアスに振りかざす

「む…」

ディアスは焦る事無く剣の柄でレナの背中に打ち付けると

地面に落ちるレナをそのまま蹴り上げる

「うぐッ」

その蹴りばかりは素手でなんとか防ぎきったレナ

「やぁッ!」

その反動のままレナはオーマをディアスに振りかざす

「……」

その一撃を加える前にディアスの顔がすぐそこまで迫っていた

ここまで間合いを取られたらッ…

「ディアス…」

レナは右拳をディアスに向かって振る…だが躊躇があだとなる

グイッ

初速を弱めた拳、そのままディアスに腕を掴まれて再び地面に叩き付けられた

「きゃあッ!」

レナはそれでも諦めずにディアスに向き直る

剣が振り下ろされていた


「レナに手を出すなぁッ!!」


ズガァアンッ!


クロードは目の前から一瞬にして油断していたディアスを吹き飛ばす

ディアスは石造りの柱に直撃して倒れこんだ

「クロード…」

目の色を変えていたクロードの横顔を見てレナは脅える

あんな夢をみたからこその不安が募った

余計な事をしたから怒られて…嫌われるのかと…

でもクロードは遠くで起き上がるディアスを見つめながらレナを抱きしめる

「ごめん…僕が不甲斐無いばかりに…ありがとう」

レナはいつのまにか涙を零していた

そんなレナにクロードは少々焦る

「れ、レナ…?攻撃された所痛い…?」

レナは首を横に振り、大きなクロードの手を握った

「えへ…これでも一応部隊で訓練受けるんだから♪」

クロードはどこか唖然とした後に微笑む

「レナ…」

ぎゅ…


そっと…私をギュッと優しく抱きしめた後に頭を撫でてくれた

このまま寝てしまいそうな感覚に襲われる…

私をいっぱい愛してもらいたかったけど…

この世界で身を任せては駄目…

今は…


「クロードと一緒に戦うんだからッ!!」


二人で手を取って立ち上がる

クロードがオーマを握り締めながらディアスに剣をかざす


「ディアス…どうして…レナに手を出したんだ…

もう僕は人と出来るだけ戦わず、傷つけない戦闘だけをしてきてしまった…

そんな僕と戦って…何を得る?」


ディアスは剣を鞘に納め、瞳を瞑って口元を緩めた

「クロード、俺はお前を試したかった…

この閉ざされた精神世界の中で、どう強くあるのか…

今まで何を見て…学んできたかだ…

それに…」

ディアスはレナを見つめる

レナはキリっとした瞳でディアスを見つめ返す


「レナが危険な目にあった時のお前の攻撃は、俺の想像を超えていた

そしてあんなにも幼かったレナがお前を守るために俺に挑んできた…

その思いを手加減なしにしっかりと受け止めたまでだ」


クロードはそんなディアスの穏やかな表情に気を緩ませながら剣を下ろす

「でも僕はレナを守らなくちゃいけない…

僕が未熟だったばかりにレナを危険な目に……」


ギィンッ!


突然の出来事ながらディアスの剣撃をクロードはしっかりと防いだ

「見事だ…初速は加減しなかったのだがな…

確実にお前は成長している…だが…

もうレナにも戦わせてやれ…」


クロードはハッとして隣でうつむくレナを見やる

レナは苦笑いしていた

ディアスがレナの頭に優しく手を置き、クロードを見やる


「確かに俺はお前にレナを守ってくれと…頼んだと言った…

だがお前が全て守る事で、レナはそれに甘えて…依存してしまう

それは今のレナは満足できていない筈だ」


僕はどこか苦笑いする

僕はレナを無意識のうちに守り過ぎていたのかもしれない…


レナが唇を噛み締めながら眉を細める

「昔の悪夢を見て分かった…

私こそ…甘えてばっかりだった…

何かあれば守ってくれる…

待っていれば助けに来てくれる…

それじゃ…いけないって分かってたのに…

クロードの優しさが暖かくて…甘えずにはいられなかった…

ここに来るまでの私もどこか揺らいでいたのかもしれない…

でも…私変わりたい…

お母さんとかになるなら私は私でしっかりしなくちゃいけない

だから…

私!一人でも戦えるように強くなりたい!」


レナの意気込みにクロードは心に響く何かを感じて涙を堪えた

そのままクロードは歩み寄ってきたレナの頬をそっと触る


「無理しなくていいから…ゆっくりでいいよ…

本当に辛い時は頼っていいんだから…」


レナはうん、うんと頷きながら涙を流していく

「でも、クロードも色々と溜め込みすぎないようにね…!」

レナの指先差しにクロードはたじたじな様子で頷いた

そのまま唇を近づけようと…

「こほんッ…」

ディアスの咳払いにクロードとレナが頬を赤らめる

ディアスが既に暗くなった空を見つめた


「いつかは夜は明ける、それがお前達の旅立ちの時だ…

それまで…クロード…手合わせ願おうか…」


レナがぽかーんとした様子で見つめる

「え?」


クロードがレナに軽く頭を下げてディアスと共に剣を交え始めた

キュアンッ!!

「ディアスと剣を交えることが出来るとは思わなかったよッ!!」

軽く戦ってなどいない

死ぬか死なないかという程の戦いを繰り広げているのに二人は笑顔で剣を交えている

「もぉー…本当、男の人って…よく分からないよー…」

二人はまるで遊んでいるかのように楽しんでいる

レナは二人らしい友情表現にクスっと笑った後に二人をじっと見た

「戦いのお手本にしようにもレベルが高すぎる…」

悔しいレナはマネをしてみたりする

ディアスが元気に答えた

「家族のところへ行けると思って、未練なく死んだつもりなのだが…

未練が十分にある事に気付いたッ…」

クロードがディアスの斬撃を軽いステップで避けていく

ニヤリと笑いながらクロードは鋭い一撃をディアスにぶつける

ガキィン!キィイイン!!

「どんな未練ッ?」

ディアスがフッと笑った


「お前と体が老いても剣を交えたい…

レナとお前の子供も見てみたかった…

地球にももう一度は行ってみたかったな…

もっと…色々な人と仲良くなってみたかった……くッ…」


クロードは一瞬剣撃を緩める

「ディアス…」

ディアスの瞳から涙が零れていた

それでもディアスは攻撃を止めない

「やっと死んだ実感が沸いてきてしまっただけだッ…」

キィンッ!!

そう言われてしまうとクロードもレナもディアスの死を受け止めなくてはいけなかった

「ディアス……」

レナが涙をポロポロと落としていく

クロードとディアスの視界は涙で閉ざされていながらも

しっかりと戦っている


ディアスは最後まで笑顔だった





ディアスは最後に言う


「時の流れの中の道で俺は立ち止まっただけだ

その道を進むお前達はずっと俺を見ながら振り向く必要はない

転んでしまうからな…


しっかり前を向いて歩け」


そうしてクロードとレナは後ろから見ているディアスに笑われないようにと…


しっかりと一歩一歩を進み始めた










*こめんと*


レナの見た幻想はクロードの苦しみ…

レナを思うからこその…優しさ

どこか喰い違いながら進んできたこの戦い

途中で心は一つになっても変わらない自分の甘え

再びレナは己の弱さを知って…戦う事を決意する

ディアスの存在を確認しながら

クロードとレナは進化していく


いやぁ…もうちょっと作り込んでうわー…みたいにしたかったんですが…

お時間です…;

挿絵は一枚エラーでなくなりましたが、なくなったことで…

予定していたディアスでなくクロレナを描けて心がずきゅーんと…はい…

過去のお話ながらクロードとレナがラブラブならではの切なさがー…

レナの甘えはやっぱり仕事上辛いから、会えない反動ですよね…etc

あんなこんなで蒼衣の体験談が含まれていたりいなかったり…etc

レナもレナなりに頑張っていますが…既にクロードもレナも連邦所属ではない…

人数が少ない中守ってもらうのではレナが納得いかない

少しばかりクロードから離れて強くなる…そんな志も必要…

つ、辛い…本当に辛い…


ディアスの死に目に会えなかった反動がクロードとレナ

そして再び考えるとまだやりたいことなんていっぱいあったそんなディアスが

涙ながらの勝負

成長した二人…いつまでも変わらない二人

ディアスが見守ってくれている…

脅える事なんてない


そして幻想世界を超えた先に待っていたのは…


こうご期待!!!





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