STAR OCEAN Sanctions of God







第十二章








プリシス










---幻想世界---



暗闇の中でプリシスはうつ伏せで倒れ…朦朧とする意識の中で、涙を流していた


負傷した筈の傷よりも…ずっとずっと痛くて…


ゆっくりとプリシスは顔を上げる

アシュトンは剣をプリシスに突きつけていた

「……」

見下すかのような視線でプリシスを睨み付けている

「アシュトン…」

相手は本当のアシュトンでない事は分かっていた…

それでも目の前の現実が…志を固めた筈の私を絶望させる

「ひっく…ねぇ…返事してよぉ…」

虚空の中に響く私の情けない泣き声

涙で溢れる瞳に視界が0になりかけた

アシュトンがそっと口を開く

「アシュトンという者の魂は既に僕の体を離れ…この世界で彷徨っている…

アシュトンという者の魂で成り立っていた僕は既に幻影と変わらない

だからそんな幻影に惑わされるプリシスは


哀れでしょうがない」


私は顔を背けて唇をかみ締める他なく…

アシュトンの声でそんな事を白々しく言われると私は涙が止まらず

私はただただ、うな垂れて…目を閉じていた



もう限界だったんだ…


どこかに行っちゃった時だって…死んじゃったって分かった時だって…


明日を信じたいって心に言い聞かせて無理やり私の足に鞭を打って立たせていたんだから…


明日を信じたい…信じている筈なのに…


筈なのに…


信じれないよ…


私…頑張ったよね…?


頑張ったよ……




プリシスは…もっと深い深い…暗闇の中に心を埋め…目を閉じた










---幻想地球 銀河連邦開発研究局長室<数ヶ月前>---





『知っていたのだろう…?この様な人型兵器を作ってはならないと…』

私は深く頭を下げていた

悔しさでいっぱいの心を笑顔で埋める

『へらへら笑っている場合じゃないんだぞ?』

私は無敵君を作ったことで銀河連邦の規約に反し、局長に呼び出されていた

『趣味といってもここまで来ると十分な最終兵器として扱える

エナジーストーンを使用した実験段階だろうが…

この人型兵器は銀河連邦が厳重に保管させてもらう』

私は頭を下げ続けていた




呼び出された事なんて瞬く間に局内に知れ渡っていて…

使用するデスクには残しておいた研究書類の他に始末書…様々な書類が山積みで…

モニターのメールボックスには明らかに喧嘩を売るようなメール、中傷メール

ただ呆れながら私は全件消去して、再び送られてくるメール達…

『なぁ、プリシスは世界を滅ぼす計画立ててたんだろう?』

私は無視をする他なくて…

その日、根も葉もない噂話のせいもあり私は恐れられ、罵られ友達のほとんど失ってしまい

レオン程落ち着いている事も出来ずにただただ喧嘩を買ってしまいながら…

私はその日は目眩で倒れ、研究課題の授業を欠席して家に帰る事にした






---自宅---



『アシュトーン元気かな〜』

最近アシュトンと連絡しない日はない

クロードに相談したいにも忙しいし…レナがいるから……

レオンに言う時もあるけど余計にストレスがたまる場合が多い

『さぁてぇー今日もいじって楽しもう〜』


アシュトンには最初は適当に連絡をしただけだったのだが…

いつもアシュトンが私宛に送ってくるメールを見たとき

時々は連絡をよこそうと思って…

一度通信で世間話を数時間に渡って話していたら…

アシュトンのまったりした感じとか…

ちょっとドジなところが笑えて…

どうしようもないぐらいに病んで、余裕のなかった私は気がつけば…


本当にアシュトンを好きになっていた


好きではあったかもしれないけれど…

ここまでしっかりした気持ちになるとは思っておらず

胸の高鳴りで眠れなかったこともあった

『アシュトーン…』

ついつい声に出す彼の名前

アシュトンが好きだった私でいようと…

アシュトンに笑われないような人になろうって…

それは今でも変わらない…


今まで色々とアシュトンは私にアタックしてきれくれていた…

昔は邪魔だと思っていたのに…

もう…私はそれだけでは心は満たされなかった

会いたくて…会いたくてしょうがない…

そんな気持ちに駆られながらながらアシュトンと連絡を取るが…

モニターに映るアシュトンは…私の知っているアシュトンではなかった

『ど、どうしたの…?そんな冷めた顔しちゃって…』

アシュトンは私を睨み付ける様にして苛立っている様子…

前までの私だったら、感じが悪いとか色々と言えたけど…

今はアシュトンが全ての私にとっては…

嫌われたのかと思ってビクビクしながら笑ってみせる


『いやなんかプリシスさ、身勝手だよね』


心を突く温かみのない言葉、戸惑いながら私は既に涙を零し始めており

モニターのアシュトンにすがる様な思いでニコニコした

『プリシスが振り向いてくれるまで僕辛かったのに

僕を好きだって分かってから勝手に態度変えてさ』

間違ってはいないけど今は強く言い返す勇気はなく…頭を下げた

『ごめんね…私…えと…ごめんなさい…

謝るから私を嫌いにならないで…アシュトン…』

アシュトンの表情はもう私は伺えない…

ただ涙を膝に落としながら俯く私

何も答えずにアシュトンはモニターを切ってしまう

虚しい音が響く部屋で私は涙を絶え間なく机に落としていく

無人君が私の足を撫でていた


「やだ…こんな過去なんて…存在しないよ…

アシュトンはこんな…こんな…!」

過去の自分の見る涙で歪んだ世界、それを共有する

幻想の中のプリシスの意識はただひたすらに恐怖と絶望に打ちひしがれ

唯一の生きる希望が途絶えてしまった…

そんな幻想から目を背けたプリシスはより深くの絶望の闇へと沈む…





目を開ければ…






---幻想エクスペル リンガ<クロード達との出会いの日>---






『んー…』

アタシは家の屋根の上で空を見上げていた

暢気な雲達はまったりと空を泳ぐ

少し肌寒くなり始めた空気はアタシの体を凍えさせる

『……』

無人君も一緒に空を見上げていた

いつまた走り出すか分からないからアタシは無人君を抱えてまた空を見上げる



『おわぁあ!!!』

アタシは無人君を追いかけて大きくこけた

土埃と砂にむせながらため息をつく

『うぅ…いったぁ…』

入り口の方に珍しい旅の人達がいる

金髪に赤いバンダナをつけた青年を先頭に歩いていた

『珍しいなぁ…旅の人かぁ…』

だがアタシが転んでも気にしない様子でその人達は通り過ぎる

『無視ぃ…!?助けてくれてもいいじゃーん…!』

振り向かなかった

頬を膨らませながら土を払って立ち上がる


ご立腹した様子でボーマン先生の所に行ってみた

転んだというのもあって治療してもらおうという魂胆

『先生ー!転んじゃったー!』

レジにいるボーマン先生、全く反応しない

何か変だった

無視するならそれなりの表情をしてニヤニヤしてもおかしくないのに…

ボーマン先生は薬剤を棚に揃えながら見向きもしない…

そう言えば最近は誰にも話しかけられず…

話しかけても無視されていた…

アタシがいつも迷惑かけてるから怒ってるのかと思っていたけど…

違った…

『アタシ…本当にここにいる…?存在する…?』

存在を否定されたかのような恐怖

アタシはただボーマン先生の所でボーっと立っている

カラン…

『ん、いらっしゃーい』

ボーマン先生の一言でアタシは無視されていないと思い、喜んでかけようとするが…

『あのー…この古紋書を解読していただきたいのですが』

先程の金髪の青年…

アタシはどうしていいか分からずに少し距離を置いて見ていた

『静かな街ですね』

その青年はクロードと言うらしい

ボーマン先生がどこか悲しみを含んだ笑顔で返す

『前までは賑やかな奴がいたから…皆も元気でやってたんだがな…

ここまでガラリと変わっちまうとは…

今走ったり屋根にいるのはソイツの機械の相棒だけだ…』

アタシはアタシ以外に賑やかな奴がいるか考えるがあまり……

それに機械の相棒って…

『引っ越してしまったんですか…?』

ボーマン先生が苦笑した


『数日前に屋根から落ちてな…死んじまったんだ』


クロードが聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして頭を下げる

『すいません…その…何も知らなくて…』

そんなやりとりをしているのをアタシは呆然と見つめていた

ゆっくりと後退りをしてアタシは店を出る

『嘘…』




自宅にいたのは親父…

アタシはどこか安心して近寄ろうとするが…

『親父…?』

親父は膝を抱えてずっと壁に向かって話しかけていた

『プリシス…私はお前だけが頼りで…希望だった…

なのになんで…こんな…』

親父が何を言っているのか分からなかったが…

うすうすと実感し始める


『あぁ、アタシは死んじゃったんだ』


そんな事も分からずにただ毎日街を駆けていたんだね…

親父にいっぱい元気だよって声をかけたい…

でも…

『親父ぃ…』

後ろからその大きな背中をギュって出来ない…

『アタシ…馬鹿だよ…こんな馬鹿ばっかして…

迷惑かけて…!うぁ…うわぁぁぁぁぁああ!!!』




幻想の中のプリシスさえも唖然としていた

「クロード達に会う前に死んでしまう幻想…?そんな…過去…?

そしたら今のアタシは…ナニ?

こんな幻想を…私はどう受け止めればいいの…?

こんな過去をずっと私は…見続けるの…?


嫌だよぉ!」


これ以上の絶望はない…

クロード達と出会えなければ何も始まらない…

あぁ…この幻想での私は死んでいるんだ…ただひたすらに彷徨い続けるのかな…

死んだことを信じられなくて…どうしようもない日を過ごすんだろうな…





『死んじゃったら…どうしようもないじゃん…馬鹿みたい…』


ギュ


『無人君…?』


無人君が何故だか死んだ筈のアタシの手を握っている

そういえばアタシは屋根にも…追いかけるにも…

無人君がしっかり着いて来てくれている

『アタシが分かる?』

無人君は頷いた気がした

コチラに顔を向けているのは確かで…

アタシはただただ無人君を抱きしめて…存在を確かめる


『いつも側に…いてくれたのに…気付けなくて…ごめんねッ…』







私は気が付けば全てが真っ白な世界にいた

「あれ…?私は…」

左手を誰かが握っている


「無人君…いてくれたんだ…」


最初の頃の無人君がコクンと頷いた

リンガでも変人扱いの私のずっと側にいてくれた無人君…

無人君がいたからこそここまで戦ってこれた…

本当に私の分身のような存在…

無人君がカタコトながら答えた

「僕ハエナジーストーンニ宿ッタ魂…

プリシスガ与エテクレタ魂

デスガ僕ノ魂ハ、アマリニモ不安定スギマス…

ソンナ僕ガココカラ、マトモニ抜ケ出セルトハ思エマセン

デスカラ…ココデオ別レデス」

私は首を横に振って無人君を抱きしめる

エナジーストーンだけはずっと初代から変わらずに動いてくれた

私はきっとここに無人君が宿っていた事はどことなく分かっていて…

別れを告げられた私はゆっくりと涙を零していく

「まだ…まだ一緒に戦おうよ…!

後ちょっとだからさ…!」

無人君がぎこちない動きでプリシスの体を包む

「プリシスニハ僕以上ニ必要ナ人ガイマス…

守ッテクレテ愛シテイル人ガイルハズデス…


僕ト同ジ時間グライ、プリシスト共ニイタ人ガ」


私は後ろの気配にただ体を震わせて…無人君を抱えながら暖かな涙を流した…


「やっと…気付いてくれた」


いつも安心する彼の声で私の胸の鼓動は今にも爆発しそうで…嬉しくて…

愛おしくて…もう……


「アシュトォンッ!!」





何のためらいもなく私は後ろにいたアシュトンに飛びついた

ドサンッ!

どれだけ勢いをつけたのか分からないぐらいに抱きついて…

私はアシュトンの頬に顔を擦り付けた


「アシュトンッ!アシュトンアシュトンアシュトンッ!!

バカバカバカバカ!!!アシュトンのバカァ!!!!

大好きなんだからぁ!!いっぱいいっぱいいっぱい…


大好きなんだからぁッ!!!」


アシュトンが涙を浮かべながら微笑んでいる

「ごめんね…こんなにもプリシスを心配させちゃって…

本当…ごめんね…」

私は涙を拭いながらアシュトンの鼻と鼻とが触れそうな距離で頬を膨らます

「ほぉらぁ…そうやって謝り過ぎる癖は直ってないんだからぁ」

アシュトンが照れくさそうに頭をかく

「ごめん」

私とアシュトンは涙を流しながら笑いあっていた

気が付けば唇同士が触れ合っていて…

「そんな所がアシュトンらしいけど…謝るぐらいならありがとうって言われたいなぁ…」

頷くアシュトン

そんなアシュトンと再び唇を触れさせると、またいっぱい頬擦り

「ねぇ…アシュトンは幻想を見なかったの?」

アシュトンがどこか考えた後にほわぁっと笑う

「見たけど…僕はこれでも後悔のないように生きたし…

すぐにプリシスを助けに行こうって思えたんだ」

私は不覚にも関心し、少しばかり考える

「元々ネガティブ思考だからアシュトンには当たり前のように感じたとか…」

アシュトンが無言でしょげてしまった…

「うそだってばー!」

分かっていた…今のアシュトンに迷いがない事を…

「プリシス…」

私の髪を撫でるアシュトン、彼に包まれた私はいつしか安心して寝息をたててしまっていて…



「ん…」

ゆっくり虚ろながら瞳を開ける私の瞳から涙が溢れた…

私は現実に帰り…成す事をしなくてはならない…


「私…もう行くね」


そう告げて私がアシュトンから離れようとした時…

逆にアシュトンが私を再び包み込む

「わ…」

暖かい温もりに私は力が抜けてしまい身を委ねる

ドキドキがおさまらない…

私はそんな抱擁に頬を赤く染めながら、頬を彼の胸板に擦り寄せた


「駄目だよぉ…私…このままじゃ…アシュトンに甘えちゃう…

行かなくちゃいけないんだよ…皆が待ってるんだ…」


アシュトンが相変わらず微笑んでいる

そして無人君がアシュトンの肩から顔を覗かせた

「僕ガ消滅スル代ワリニ安定シタ魂ノアシュトンガ無人君ヲ引キ継イデクレマス」

プリシスが唖然とした様子でアシュトンと無人君を交互に見つめる

「エナジーストーンにアシュトンの魂を宿らせるって事?

そんな事可能なの…?」

無人君が頷き、アシュトンが答えた

「アンカース一族の僕は紋章術の起源…故に自然を支配する力を魂で受け継いでいる

どんなものにも魂を宿すのは可能なんだ」

初耳ながら希望がゆっくりと膨らんでいく

死んだ筈のアシュトンの魂が物理的な体を持てるって事は…

アシュトンが…これからも私の側にいてくれる…?

一人で泣かなくていいのかな…?


「また一緒に戦ってくれるの…?」


顔を上げた私の頬を撫でてくれるアシュトンの大きな手


「もちろんさ」


頷きながら微笑むアシュトン

無人君がどこか寂しそうな音を立てながら元気にはねる

「うぅ…う…ッ…」

言葉に出来ない喜び

「アシュトンッ!!」

私は…ただただ嬉しさのあまりアシュトンが苦しむ程にギュッとしてしまった







「お別れだね…無人君」

アシュトンと手を繋いで無人君と向かい合う

私の目には涙が零れる

でも私は笑っていた

「イッパイイッパイ楽シマセテモライマシタ!

僕ハイツマデモプリシスヲミテイマス!」

無人君がアシュトンとアイコンタクトすると私は首を傾げた


「もう、絶対…君を放さないよ」


アシュトンがそう私に言うと掴んでいた手をより強く握ってくれる

あまりにも真剣な表情のアシュトンが格好良すぎたみたいで…

恥ずかしくて私はアシュトンから目を反らしてしまい…

「あ、当たり前だよ…!…ぅぐ…ひぅ…」

私は強がった割には遂に泣き出してしまって…

アシュトンに寄りかかって温もりを感じた後に涙を拭う…

あぁ…私はこれで…戦える…そう思えた…






「無人君」


私は最後に手を差し出した

無人君が手を出すと私はギュッとその手を掴む

「オ二人ガ幸セデアル事ヲ願イマス

ソシテ頑張ッテクダサイ!」

私は精一杯笑った

無人君を心配させないように…

悲しみに再び包まれないように…


「ありがとう…私の相棒!

いってきます!」







それはどこか不思議な時間

プリシスの止まってしまった筈の時間はゆっくりと進み始めた









*こめんと*


書いててなんだか泣いてしまいました;

プリシスを絶望させる筈の幻想達はある意味、振り返える機会をくれながら…

大切なものを思い出させてくれる


コミックでのブルースフィアからの節目があそこでした…

好きではあったけれど…

アシュトンが好きであった自分を保とうと必死に頑張っていた

本当に自分を否定されたり…どうしようもない負の連鎖は耐え難いものです…


死んでしまった話はどこか短編で出そうと思っていたものでした

死んでしまってはクロード達とも出会えない

ただ後悔する毎日

でも…側には無人君が常にいてくれた

自分を思ってくれているモノはすぐ近くにいるという事ですね…


幻想を軽く抜けたアシュトンはプリシスに必死に呼びかけた…

そして再会…現実では不可能な再会ですが…

本当…本当ここまで耐えた甲斐がありましたねプリシス;;

無人君との別れとともに…

アシュトンとプリシスが前を向いて歩き始めました!


次回はクロレナの幻想世界…



こうご期待!!!





back