STAR OCEAN Sanctions of God







第十二章








リヴァル










---幻想世界---



何もない暗闇でレザードが語りだす


『そう…ここは精神だけが記憶の中を彷徨い続ける牢獄…

はるか昔から壮絶な効果がある呪術世界でありながら…

何よりも”人 ”の心は複雑で奇怪…

術者も恐れる…幻想…

人は神の様に完成した生き物ではない

苦しみ、悩み…絶望し…堕落する不安定な精神…

それを事実として受け止める前に疑い…

醜い争いを引き起こす…そんな人間にこそ…

そんな闇をより深く与え続ける…それが”幻想世界 ”という名の…


迷宮


そんな古いやり方が効くかと…?

人間なんて100年程度しか生きていない…

何度生れ変わろうとも…たかが知れていますよ…

効果があれば使うのが私のやり方なんです…クックック…』

















---幻想エクスペル ラクール平原---



レオンは風のなびく草原で一人だけで立っていた

「あれ…僕は確かヴァルキリーに…」

一瞬ここは天国かと考えたレオン

あながちそれは間違っていないのかもしれい

目の前に両親が立っていたのだから

「パパ…ママ…」

ズバァッ!!ブシュッ!!!

レオンがそう呼びかける前に両親は血しぶきをあげながら崩れ落ちていった

そして消えていく両親…

レオンはキョトンとしている様子で瞳を泳がせる

「レオン…」

そして後ろからそっと誰かがギュッと抱きしめてくれた

「リヴァル…」

レオンはリヴァルをどうしていいのか分からない表情で見つめる

「怖がらなくていいんですよ…私はここに…」

ドスッ…

ゆっくりと…うな垂れるリヴァルの背中には片手剣が突き刺さっていた

「リヴァ…ル…?」

レオンの両親の返り血を浴びたヴァルキリーが無表情で立ち尽くしている

リヴァルをそのまま切り捨てると血を滴らせる片手剣を握り締めながらヴァルキリーは呟いた


「幻影だとしても…辛いか?切り捨てた私を許せないか…?」


レオンは唖然とした様子でユラリと立ち上がって紋章を刻み始める

ヴァルキリーはどこか哀れみの表情をレオンにすると背を向けた

「憎め…ただそこからは何も生まれない…」

レオンが粉のように消えたリヴァルを見つめながら叫ぶ

「まて!お前は絶対に許せない!!よくもパパをママを…リヴァルをッ!!」

湧き上がる憎悪、レオンは炎をまとった拳を握り締めてヴァルキリーに向かって突っ込んでいく

気がつけば…視界が真っ暗になり…

レオンはヴァルキリーのオーラだけで吹き飛ばされて地面を転がった








幻想世界に入ったことでヴァルキリーの魂に閉じ込められたリヴァルの意識は迷宮に迷い込む

ただひたすらに記憶と過去をさかのぼり…夏を迎える…







---リヴァル幻想世界 エディフィス 学校の帰り道の浜辺 <300年前>---






私は…ただ…この星が好きで…

この蒼い海が…空が…


大好きだったんです…






ザァァ…

「海は広いな大きな♪

月は昇るし日は沈む♪」

この歌は私が地球にいた頃におばあちゃんから教わった歌…

凄い古い歌らしいけど…私は好きだった…


「ふぅ…」

私の家は都会と比べれば田舎で…ほとんどと言っていいほどに不便で…

あるといったら海か山ぐらい…

「おーいリナ…また学校サボりかー?

どうしたー?飛びたい気分かー?」

海から顔を覗かせるエディフィアンの男の子『カイン』

最近知り合ったのだけれど彼はエディフィアンの中でも

頭が良いらしく…でも他のエディフィアンにあまり好かれていないらしい

「今日は私の中のお休みなんですー!」

私はどこかカインを見た後に空を見上げる

カインも一緒に空を見上げた

「最近まで地球に帰りたいって思ってたんですよ…

だけど…今は何故だかこの星が好きなんです

やっぱり私は星のありのままの姿が好きみたいで…」


地球での宇宙歴が始まった頃に確実と言われた…ワープ旅行…


旅行は勿論だが惑星探査や他宇宙拠点への物資配達などの計画も含んでいた

それに居合わせた私とその家族…

楽しい宇宙の旅だった筈が…


ワープ事故が起きてしまう


その頃の科学で未知の域に飛ばされ

生き残った宇宙船だけがこの地球に非常に似たエディフィスへと降り立ち…

エディフィアンと出会う

彼らは海で生きており…様々な交渉の上…陸地での生活を許してくれた

ここ数年で地球人は宇宙船の余っていた技術を使い…都会を作り上げる

様々な身分が既に出来上がり…都会が嫌になった人々や開拓者は自然が豊かな場所へ住み始めていた

地球の第三次世界大戦の復興途中の景観より…やはり自然な形で存在する森や…海が大好きで…

私たち一家はこちらに越してきたのがつい最近…

「地球でもここの都会でも変な子扱いでいじめられてたんだもんなー」

カインがデリカシーのない事を言うがリナは気にしない

「構いません!今の学校は楽しいですから!」

立ち上がってスカートに付いた砂を払い鞄を持つとスタスタとその場を後にする

夏の様な日差しの中、蝉が鳴いていて…

私は足早に家へ帰っていった

カインは苦笑いしながら海に潜る…

「僕に嘘ついても心の声丸聞こえだって…本当…不器用」

エディフィアンの人の心に介入する力

それはどこか地球人にとっては奇怪で…

エディフィアンに理解を示さない人が増え始めたのも事実…

地球人とエディフィアンでのいざこざが最近では目立ち始めていた

「ほとんどの人間は勝手だけど…リナは違うって…

僕は信じてるよ…」







閉じ込められたリヴァルの魂はただひたすらに忘れていた記憶を思い出していく…

『ここは…昔の私…リヴァルじゃなかった頃の…私…』

アクマとして転生し続けた自分でない…元の…本当の私…

地球からひょんな事からエディフィスへ来て…住み始めた…

そんな頃の私がそこにいた…

なぜだか私自身はリナのすぐそばで客観的に見ていて…

すぐさま途切れたテープの様に風景が変わっていく…







---リナの通う高校---


「………」

私はぼーっと空を見上げながら雲を目で追っていて…

突然座っていた椅子を蹴られた…

「ほらリナ、ジュース買って来てよ!勿論あんたもちで!」

相変わらずの女子のいじめっ子達…

相当色々な事されたかな…

まだ都会の方がこっそりではっきりここまで乱暴でなかった気がする

「ほら!行かないとどうなるか分かってるんだろうね!?」

でもこのぐらいの年頃になればそういう風に相手を馬鹿にしたり…

こき使ったりしていじめるのを楽しむ…そんなのは昔から変わらないけど

変わってしまったのはそれを助ける人たちだって…

お母さんは言ってた…

「分かりました!買って来ます!」

私は言われた通りにジュースを買いに行く

周りの人は見ぬフリで自分のしたいことをしていた


そんな感じでいつも通りの学校が終わる

色々といじめっ子に付き合う様に後々言われそうだから…私は早々と学校を後にした









---浜辺---



小波が静かになった薄暗い空に響く

聞こえるのはヒグラシの鳴き声…

そんな浜辺で一人私は…泣いていた

「泣いてるんだな」

カインの一言で私は本泣きしてしまって…

カインが困った表情でいつの間にかリナの横に座っていた

私がどこか強気になろうと首を横に振る

「泣いてません…!」

そう言うとカインは額にデコピンをかます

「あいたっ…」

カインはそのまま何も言わない…

私は無性に涙が零れ…

カインに全てを話した

相当不安定だった心は穏やかになっていく…



そんな二人を遠くから見つめるリヴァル

ただ眉をしかめて…これから起こる事実に目を背けた…

『事実は…いつも残酷…こんな事を思い出したくはないのに…』



「今の人間にはお節介っていうんだっけ…?あれ…

優しさなんだけど…ちょっと悪い優しさ…

足りないよなー…

自分まで巻き込まれたくないんかな…?」

私は首を傾げた後に頷いた

「多分…そうかもしれません…皆守ることを考えて、脅えて…引きこもりがちなのかもしれませんね…」

カインは明るい表情のままに私の頭を撫で回す

「わわ…!なんですか!」

私の表情を見てかカインが笑っている

「前向きだ…前向きに考えれば全てがうまくいくさ」

私はキョトンとした後にクスクスと笑った…

涙が出るほどに…








それから私は全然いじめなんて気にせずに…このエディフィスをもっと好きになれた






好きな人もできた

同じクラスなのだけど、凄いトップクラスに頭がいいし

凄い偉い科学者夫妻の息子らしい

でもどこか私に似て不器用でいつも孤独

強がっているように見えた…そこにひかれたのかもしれない

そんな彼への相談も笑顔でアドバイスしてくれた

本当にお兄さんのような存在





『でも…あんな争いがなければ…私は…』



地球人とエディフィアンとの戦争



醜い争いとした言いようがなかった…

元はやはり地球人の方で…裏で侵略という名目で動き…

地球人が一方的に攻めた上で抵抗したエディフィアンに宣戦布告をし…

エディフィス全てを支配しようとしていた…

第2の地球として…発展をする上でエディフィアンは邪魔…

そんなの政府や上層部の人たちが勝手にこまねいた事…

一般人のほとんどは戦いたくない、愛すべきエディフィアンを殺していった…

地球人の貪欲さが垣間見えて…

そのまま他のエディフィアンとの交流が完全禁止…


それでも私は…カインへの相談や他愛もない話を…

気になっていた彼と付き合うようになっても会いに行っていた




リヴァルはただそんな二人を見ずに濁り始める空や海を見つめ…

ひたすらに漆黒の空に飲み込まれそうな悲しみの表情で涙を流す…




カインとこっそり会っているはいつかはばれるのは分かっていたが…

ここまで人間が残虐だとは知らず…

私は血の涙さえ出そうな…そんな失意のままに牢屋に入っていた



『ただカインとは親友としていたかっただけなのに……』



そう…見つかってしまったカインは

エディフィアンへの見せしめと言わんばかりに公の場で残虐に公開処刑され…

禁止されていたエディアンとの交流を破った事で私は永遠に空も見れない牢獄に入ってしまったのだった…

まさかここまで交友関係が崩れているとは…そこまで深刻だと知らない私は自らを責め続ける

この罪のせいで私の家は強い地球人支持派に燃やされ…家族は…大好きだった彼氏は………………



そんなリナの横でリヴァルは彼が来ないのを願い続ける…

このままリナは失意のままでいいから死んでもらいたいとそう思った…

これから起こる…悲劇を繰り返すぐらいなら…


でも…今ここにる”リヴァル ”が存在する限り…この過去は変わらない…


ブゥゥウウン…


リナの前に紋章が刻まれたかと思うと…そこにはレザード・ヴァレスが立っていた

薄っすら笑いながら虚ろな表情のリナに話しかける


「どうです…?こんな世界アナタの手で滅ぼしたいと思いませんか…?」


リナは頷いた

これが…文明崩壊循環の始まり…

愛するヴァルキリーの魂が収まったリナはレザードに研究材料にされ…

地球人が放っておいた人口AIを改造…エディフィス・マザーを作り出す…

エディフィスを発展させて再び宇宙進出しようとする地球人を滅ぼした…

リナが朽ちたとしても…再びただ記憶が入れ替わった”アクマ ”がひたすらに…


エディフィスの文明を滅ぼしていく


リヴァルは何度も何度も繰り返される風景に目を背けて…

目を開ける事さえ…止めてしまった…









『レオン…』

リヴァルは何もかもが闇に消えた過去の迷宮の中でそう呟く

『レオン…レオン…』

繰り返される情景の中でもレオンとの思いでは…


輝いていた


私はまだ全てを失ってはいない…


涙がそっと闇に溶けていく…


でも、どうすれば…この過去から抜け出せるのだろう…


どうすればこの汚れた罪を…許してくれるのだろう…


許されれば…私は…また笑顔でレオンや皆に会うことができるだろうか…?




私は………



『その罪を許しましょう』



本当はその存在、記憶すらない筈の者がリヴァルの目の前にいた

誰もいない筈の暗闇で一際輝く”ヴァルキリー ”

その存在は神々しく…リヴァルはその声を聞いただけで涙が溢れ出す


『私は常にあなたを見つめ…アクマとして罪を犯し続けたあなたを…

唯一許すことができる…』


リヴァルは首を横に振る

『ですが…私は幾億の人々を…文明を…滅ぼしてきました…

そんな私が…』

ヴァルキリーがゆっくり微笑むと優しくリヴァルを抱きしめた

全てを包み込む様な光が眩く二人を包んでいく


『罪深き者を許す私は…より罪深き存在…

それでも私はどんな罪も許しましょう…

私が神として存在した頃の誇りが残っているのならば…

それが今ここに私が目覚めた理由だというのなら…』


ヴァルキリーが目をゆっくり開けると周りが一変する

青い空に一面の草原…そよ風が吹いた

リヴァルは声が出ずに唖然とし、ヴァルキリーを見つめる


『罪は私が許しても、どんな形であろうと消すことはできない…

その罪を改めるのに意があると私は思っている…

あなたの罪の改めを見届けさせて貰うわ…いい?』


リヴァルが次々に溢れていく涙に顔を手で覆ってゆっくり頷いた

サァ…

日はどこか暖かく…風は草の匂いを運んでくる

ヴァルキリーはリヴァルの頭を撫で、どこまでも続く平原、空を見渡した


『自己紹介が遅れたわね…

私はレナス・ヴァルキュリア』


レナスがそう呟くとリヴァルが微笑みを見せてそっと顔を上げる


『それは…本当の名前ですか?それにこの創造の力は…』


どこか不意をつかれた様な質問にレナスは笑った


『私は今を生きている…私はレナス…

…フフ…私は前の世界の創造神に過ぎないわ』


リヴァルはその強い意志と余裕の表情に踏み出す勇気をもらい…天に手を伸ばす


『私は明日を精一杯生きます…それが罪滅ぼしになるのなら…」


レナスが目を細めてレザードの今までの愚弄を思い返していく…

それが運命に縛られているのは分かっていた…

リヴァルの伸ばした手に自分の手も重ねる


『運命の連鎖に繋がれた仲間を楽にするためにも…力を貸しましょう…」


解き放たれた2つの意志は眩い光を放っていた









---幻想エクスペル ラクール平原---



平原のど真ん中でレオンは必死に立って戦っていた

ヴァルキリーに何度もリヴァルや大切な人を盾にされる

「くぅ…」

それでも自分の気持ちがしっかりと固まっていた

過去や過ちを身に刻むたびにレオンは前に動き始める


「僕はリヴァルを守りきれないかもしれない…

世界を救えないのかもしれない…!

それでも僕はそこで迷って後悔するつもりはないッ!!」







圧倒的な神の息吹を漂わせるヴァルキリー…

レオンの強い意志のこもった眼差し…

「終わりだ」

吹き抜ける風は冷たく…ヴァルキリーのかざした剣はレオンの頭に向かって振り下ろされた


ブワ…


「ッ……?」

立っている事すらおぼつかないレオンはやられることを覚悟していたが…

急に蒼白の羽が当たりを舞っていた

解き放たれる2つの意志


「迷わず進む…それは時には無謀

時には一歩の前進…」


目の前にいるヴァルキリーはまるで女神の様な微笑みを浮かべたかと思うと…

「レオンッ!」

レオンの胸に飛び込んで頬をすり寄せた

どうなっているのか分からないレオンはただ頬を赤くしてヴァルキリーを抱きとめる

「リヴァル…?」

レオンのぎこちない笑み…ヴァルキリーが元気に笑った

「はいッ!」

まさしくリヴァルだと確認できる笑顔にレオンは涙を滲ませてきつく…でも優しく抱きしめた

「ただいまです…レオン!」

二人は離れていた分…お互いを確かめ合うように肌を触れさせる


リヴァルの意識の中で…レナスはどこか羨ましそうに微笑んでいた





*こめんと*


幻想世界へと送り込まれてしまったクロード達

レオンは16歳ながらの精神能力の高さはあるが…

両親を失ったときの悲しみ…そして大切な人を傷つけられる苦しみ

じわじわと追いつめられるはず…それでもレオンは過去を糧に生きる事を忘れなかった…

壮絶なリヴァルの過去…アクマ誕生…

それを救ったのが封印されていた筈のレナス・ヴァルキュリャの意識…

罪を背負って生きる事を決意しレオンの強さを認め…

彼らはこの幻想を受け止めながら先へ進む…


レオンとリヴァル分けて過去を振り返りたかったのですが…

内容的にもぐだぐだするのは確実なので二人いっぺんにをやらせてもらいました

レオンはまだ少年ながら冷静でしっかりとしている…あまり深く幻想世界に入り込まなかったのですが

幻想世界に入る事でリヴァルの記憶が全て戻っていき…

自分の罪深さを改めて知ってしまう…

マザー・エディフィスは元は地球製という裏設定があったのでこのような過去に…

あくまで私の想像ですので…!ですが…リナの物語はもう少し長く書いてみたかったですねー!


<前の世界=VP>レナス・ヴァルキュリャが創造神に→<今の世界=SO>存在は消え魂だけの因果で転生…それがリナ→…→リヴァル

さて…リヴァルの意識の中でレナスが覚醒!

外ではオーディンと女神姉妹が覚醒…こ、こわー…

果たしてクロード達の運命やいかに…!


こうご期待!!!





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