STAR OCEAN Sanctions of God







第十一章








第九部










---グランド・ノット---



レザードがゆっくりとこちらへ歩みよってくる

シャルは怖さで後退し始めた

レイアも恐怖で震えが止まらない…

「あの方々は…幻の中ですよ…

精神世界に肉体を閉じ込めたまでです…」

そこにる三人全員をじっと見つめるレザード


「なぜあなた方を残したと思いますか?」


レイアはどこか戦う覚悟の上での睨み

シャルはレザードと目を合わすのを恐れ、顔をそむけた

アーツはジッとただレザードを睨みつける


「嫌われたものですねぇ…

ですが…問題ありません…いずれ自我などなくす…

あなた方は私の研究材料になっていただくのですから…」


レイアがレザードのその冷たい視線にトラウマを感じ身を引いてしまう…

シャルは既にアーツの後ろに隠れてしまった

毅然としてアーツは姿勢を崩さない

レザードが不気味に微笑む

「ほぅ…あなただけは…私が何を言いたいか分かっているようで…」

アーツが口を開く


「黙れ…」


シャルが一瞬誰の声なのか周りを伺ってしまった…

レイアがアーツの様子にただならぬものを感じて息を飲む


「私からお話しましょう…

ねぇ…エルフの守護神アーツ…」


レザードはアーツを見ながらわざとらしい口調をする

レイアとシャルが困った様子で目を泳がせていた

「我輩らはお前を倒しに来たんだプ…!

我輩たちが何であるかなんて!」

アーツが毛を逆立ててレザードを威嚇する

レザードがそっと呟く

「いいえ…

貴重なサンプルがこんなに揃っているんですよ?

見逃す訳にもいきません…クク…

シャルと言いましたか…?

あなたは自分が何者か知っています…?」

アーツが目を見開いてシャルにレザードを近寄らせない為に前に出る

「この子は…ただ踊り子をやりたいんでプッ…!

それ以上でもそれ以下でもないプッ!」

シャルはレザードの話に聞き入ってしまう…

「前の世界でも誇り高きエルフの魂は

この世界でもネーデや銀河の果ての惑星でひっそりと気高く存在し続けました…

エルフは狭き範囲で自然から自らの世界を作り出す…神秘深き種族…

この世界の掟の一つの紋章を無視する魔法の数々…

それでもネーデや他の惑星は既に純血ではありません…

代々と命と純血を守る守護神がいるエルフだけが…創造の力を保ち続けられました…

そう…シャル…あなたが…もう稀に見ない純脈のエルフなのです…」

シャルはレザードが何を言っているか分からなかった…

エルフという言葉はおとぎ話でしかあまり聞いた事がない…

だが…他の人と違うのはこの戦いの中で知りえている…

「アーツが教えてくれた…歌と…踊り……」

アーツを見つめるシャル…どこか不安でいっぱいの表情

歌い踊ることに喜びを感じるシャルは心の中で拒否する

アーツはシャルをぎゅっと抱きしめた

「我輩は皆を幸せにしてもらうために教えたんだプ!」

シャルがアーツの顔に涙が伝う頬を擦り付ける

「私…もうあんまりいないエルフだから…

今まで色んな人にイジメラレタノ…?

仲間外れにされてきたの…?」

蘇る過去の記憶

ロセッティ一座に拾われるまでの間…アーツだけが友達だった…

耳の事やちょっと違う価値観…

そんな思いは誰よりも分かっているアーツは歯を食いしばりながら…

シャルの頭を撫でてあげる…

「大丈夫プ…全ての人から好きであってもらう必要はない…

今はクロード達がいるプ…」

シャルが消されてしまったクロード達、そして今のこの戦況…

10歳のシャルが不安に押しつぶされそうになるのはしょうがのないこと…

それでもアーツは優しさでシャルを抱きしめながら歌い始める

この周辺を温もりと優しさで包まれるようなメロディー…

そんなシャルやアーツを見てレザードは身震いし…笑っていた…

「素晴らしい…是非私のモノに…っ…」

シュッ!

気が付くとレイアが鋭い眼差しでレザードの顔面を狙って

鋭いストレートパンチを決めようとしている

レザードは軽く避け、レイアの放ってきた腕を掴みあげて上に吊り上げた

「きゃぁ…!くっ…シャルを…悲しませるあなたを…許す訳にはいきません!

この星々の大海で様々な人々や種族がいます…!

ですが稀なエルフであろうと…!どんな種族であろうと…!くっ!

決して人一人の価値に上下なんてありません…!

ましてやそれを人が決めるなど…」

レザードはレイアの頬に触れながら顔を触れ合いそうな距離で呟く

「若いですねぇ…確かにそれが基本で存在しますが…

この世界では『キレイゴト』の一言で済んでしまう…そうでしょう?

あなただって…大変素晴らしい体だ…クックック…

体の器は小さいのに…ヴァンの魂を抱えて生きている…

体の寿命が縮まってしまうでしょうに…

そんな運命を背負うより…私の研究材料になりませんか…?

悪いようにはしませんよ…あの男達のように雑には扱いませんから…」

一瞬トラウマを思い出して目を瞑ってしまったレイアに

レザードは首から胸辺りまで指で撫でていきレイアの怖がる表情を楽しむ


ズガァアアアンッ!!!


レイアの目つきが一気に変わり、レザードを衝撃波で大きく吹き飛ばした

「なんですか…ヴァン…私の楽しみを奪うなんて酷いですね…」

レイアは衝撃で吹き飛ばされ、アーツに抱えられていた

その前に大きな影が出来る

そこにはヴァンが立っていた


「うるせぇ…レイアを怖がらせんじゃねぇ…」


レザードはつまらなそうにレイア達を見やる

「まさか魂だけのヴァンが…肉体を得られるとは思いませんでしたが…

レイア…あなたの力も覚醒しだしたとなると…私も少し笑っていられません…」

レイアを見やると目つきを変えてヴァンを睨み付けた

「あなたを排除すれば…私の計画通り進む…魂ごと消して差し上げましょう…」

圧倒的なオーラをまとうレザードはゆっくりと笑みを浮かべ

ヴァンがガントレットをレザードに突きつけながら疑問を投げかける

「お前のその眼鏡へし折る前によ…聞きたい事があるんだが…いいか?」

レザードは戦闘馬鹿だったヴァンがすぐに手を出してこない事に関心し

頷いてみせた、どこか余裕な表情で…

「構いませんよ…あなたには知る権利までは失っていませんからね…」

そのレザードの挑発にのらずにヴァンは目を細めた


「俺は…誰だ…?」


レザードは眼鏡のずれを直しながら呟く

「あなたの魂は前の世界の神のモノ…

たまたま宇宙で放浪していたクラウストロ人のあなたを殺し…

私の下僕にしたんです…クックック…

その神はその世界では絶対的な主神として存在したんです…

私が目指した存在…それを従える…これほど愉快なものはありません…

ただそれだけですよ…ヴァン・フィッター」

ヴァンは神だった頃の記憶などほとんど残っていない…

それでもヴァン・フィッターという名前から

ゆっくりと人として生きていた頃の記憶が蘇る

「前の世界の俺を従えるなんてお前の勝手な自己満足だろうが…

俺は人として生きていた人生を台無しにされた…」

レザードはまるで重くも何も受け止めずに薄ら笑う

シャルはアーツの胸で少し寝息を立てていた

アーツも前の世界から受け継がれた主神のほとんど知っている

「オーディン…」

人には冷徹で…力よりも策略に優れた主神…

ロストミスティック(王呼の秘法)などの強大な魔術を扱う…

ヴァンが使えたのは魂が覚えていたのであろうが…

アーツはヴァンを見ながら笑っていた

「ププ…ヴァンとは全く逆な奴だプ…

魂なんて関係ないプよ…」

アーツも前の世界の因果を忘れる決心をつける

ヴァンは一度レイアを見やるが、レイアは笑顔で微笑んでいた

レイアはあまり驚かず、ヴァンが神だったという事実を受け止める


「死ぬ寸前だった私をその凄い力で助けれくれて

…ここまで連れてきてくれた…

あなたに会えて良かったって…そう思えます」


ヴァンの表情が一瞬優しい表情になり、お互いの気持ちを確認しあう

そんな二人を見てレザードが呆れ顔で眼鏡を押さえてうつむいた

「最後ですから…事実を言っておきましょう…

前の世界の魂は共鳴し合い運命で何度も引き合う…

ヴァンの魂が前の世界の主神の魂…

そしてその主神を慕う二人の姉妹の女神の魂がレイアの魂…

魂だけの存在であるヴァンが命の源の肉体を持てたのは…

レイアに宿る創造の女神フレイの力によるもの…

そしてヴァンがレイアの肉体で覚醒した際の…

全てを粉砕する圧倒的な力は…

前の世界で主神が封印していたもう一人の女神フレイアの力です…」

レザードは今の時点で言える全てを話し尽くしたかのように言葉を切って…背を向けた

ヴァンはよく分からないながら、とにかく自分とレイアがとてつもないモノを背負っている事を確認する

アーツが眠るシャルを抱えながら呆然としていた…

「ここまで…神やエルフである我輩達の魂がそろうなんて…

魂の共鳴による…必然的な出会いなんでプかね…」

眠っているシャルがゆっくり目を開けて…優しく笑みを浮かべ…呟く


「私…もう逃げない…

歌おう…

そして踊ろう…アーツ…」


シャルの微笑みと同調するかの様に周りにゆっくりと草花が咲き出した

アーツは暖かい涙を流しながら立ち上がる


「我は誓う…エルフの主を守らんことを…」


アーツが眩く光り、誓いの詠唱をすると

シャルはデジャブかのように記憶の奥底に眠る言葉が蘇った


「汝は守護神…フェアリー・アーツ!」

オォォォォォオッ!!!


アーツは小さい体から溢れる光と共に幾つもの光の珠になり

シャルの周りを幾十にもぐるぐると回る

その姿は一固体で守るものでなく、シャル自体に纏う事で絶対的なモノとなった…

「これが…アーツ…」




「ヴァンさん!」

レイアがフラフラとした足取りでヴァンの元へ歩み寄り…背中にしがみつく

「この想いは…前の世界でもあなたの事を想っていたから…

魂が共鳴しているからかもしれませんが…

私は不器用で…すぐ熱くなってしまう…

強くて格好良いヴァンさんが好きです

今までも…そしてこれからも…」


ヴァンがレイアの温もりを感じながらそっと男の涙を流した

レイアがヴァンの横に立ってヴァンの手をとり…レザードを見つめる


「あぁ…俺もだッ!!

行くぜ…レイア!」


ヴァンのたくましい横顔

レイアは元気よく頷いた

「はい!」

シャルとアーツもゆっくりとヴァンとレイアの横に立ち

何にも迷わない表情でヴァン達はレザードを見やった





レザードは未だに余裕のある表情で口元を緩ませる


「クク…まさかここまでの者達が集うとは…

”神の魂と能力を持った”ヴァンとレイア…

”エルフの純血…エルフの創造の力を持つ”シャル…

そして…”エルフの守護神”…アーツ

私にまで辿り着く程の者でありながら人を超越した存在が…

抵抗してきてくれるんですからねぇ…!」

ヴァンは面倒臭そうに拳を振り回す


「御託はいらねぇ!お前をぶっ倒して!!

クロード達の居場所を聞き出す…!そして…!

このくだらない戦いを終わりにしてやる!!」


レイアもシャルもアーツも頷き、レザードが詠唱もせずに…

「プリズミックミサイルッ!」

ヴァン達の方向へ次々に様々な色の光の弾が飛んでいく

ダンッ!

「いくぜッ!!」

ヴァンの地面を削る踏み込み、当たりそうな弾を次々に拳で消し飛ばしながらの特攻

その他の弾はかなりの速度で避けていく

「ほう…少しは考える様になったみたいですね…」

レザードが撃ち終わる頃にはヴァンは既にレザードの後ろに回りこんでいた

「ダークセイヴァー…」

ヴァンの拳がレザードに当たる寸前にヴァンの後ろに黒い刃が突っ込んでくる

「だからなんだッ!」

ヴァンは避けずにレザードに拳を振り下ろす

だがそこに既にレザードはおらずに空振り

黒い刃は上空に飛んでいたレイアが打ち消し、現れたレザードに向かって…

ズギァャンッ!!

「む…」

レイアは女神達の能力を思い出し始め

空中に浮かび上がりながら手のひらから小さいながらの強力に圧縮されたエネルギー波がレザードに放たれた

すぐさま紋章を刻み消えうせて姿を現すレザードを上空からレイアが次々にエネルギー波を放っていく

エネルギー波の雨を縫いながらヴァンが相当な速度で移動

「この子をこんな所で野放しにしておいて大丈夫なのですか?」

気が付けばシャルの真後ろにレザードが立って眼鏡を直している

シャルは驚きもせず、振り返らずに口ずさんでいた歌を紡ぎだし、踊りだす

それはどこか寂しさの混じるメロディとダンス

囲うアーツの結晶達はシャルを回る回転数を高めて冷気を帯びた


「♪キラキラ凍える大地♪

♪それでも自然には誰もが逆らえなくて♪」


レザードが気が付く頃にはとてつもない早さで足元が凍りつき

レザードが氷を一瞬で溶かした瞬間にはアーツの結晶達が音速で突っ込んできていた

「ぐッ!」

避け切れずに四方八方からの攻撃に空間転移をする前に肩を貫かれる

その部分から一気に凍結していくのを見てレザードは苦笑いした

「中々…」

レザードは歌っているシャルに向かって大魔法を叩きつけようと手を差し出した瞬間には…

周りはほとんど凍りつき、容赦なくアーツの結晶が地面の氷と同化し

レザードめがけて氷の刃達が一直線に連なって空を切る

「さすが創造のエルフ…この世界の紋章術などでは及ぶ筈はありませんね」

レザードが一歩前に出てヴァンの高速の一発を避ける…

ズゴォンッ!

レザードが前方から四方八方から迫る凍て付く氷の刃、そして上空のレイアのエネルギー波

ヴァンの攻撃は地面に直撃して空振り

空間転移したレザードが見た光景


「やっと出し方思い出したぜ…」


ヴァンがニヤつきながら地面から召還したのは…


グングニル


ドゥンッ!!

ザッとグングニルを手に取るとヴァンはレザードに向かって放り投げる

レザードは口元は笑っていながらも汗が滲み始めていた

「私がどこに逃げようと…グングニルは狙った敵を…

どこまでも逃さない…」

ギュンッ!!

「くっ…」


高速で転移するレザードと同等の早さで向かってくるグングニル

それにまた同等なヴァンの速さの攻撃

レイアのエネルギー波と共に圧倒的な力を持った威力の数の多い技…

シャルとアーツの完全なる絶対防御と絶対空間支配の力…


そしてシャルが歌い終わろうとしていた

アーツの結晶がシャルの周りを超高速回転しながらシャルの足元に紋章を描く


「♪そして私は氷となり剣となり♪

♪華麗なるアイス・メロディを刻む♪」


詠唱の原型とも言える自然を操る力

歌い踊る度に自在に冷で全てを凍らせていく二人

歌と踊りで空間を創造し…周りを思いのままに変えるシャル

その能力を力に変換し守護神として絶対的な守りと力を見せるアーツ

レザードの限界が来ていた

「そこだぁッ!!!」

ヴァンの力のこもった一撃がレザードの顎にじかに直撃

「ぐあぁあッ!!」

意識が一瞬飛んだが目の前の光景にやはり目を細める他なかった


ズンッ!!!


高速でレザードを捕捉していたグングニルが胸を貫通したのを確認したレザード

そのまま壁に叩きつけられて身動きが取れない状態で視界にあるヴァンの…


「マックスエクステンションッ!!!」


レイアが上空からの…


「神技エーテルストライクッ!!!」


そして目の前にあるとてつもなく大きい氷の刃…


ズギャアアアアアンッッ!!!!


部屋の大半が吹き飛びながらレザードは無事で、虚ろな目で辺りを見やる

ブゥウン…

レザードはぎりぎりで空間転移をしたものの…

体中血で汚れ、眼鏡が完全に壊れ、左腕が消し飛んでいた

レザードの下に紅い紋章が刻まれ

「私自身が…神なる存在達に立ち向かうのには…無理が…がふッ…あったようですね…

ですが…クク…私の代わりと言ってはなんですがね…

最高のお相手を…用意しているんですよ…」

そう言ってニヤリと笑うレザードは余裕な表情をしている


ズォオオオンッ!!!


とてつもないオーラと共に紅い紋章がレザードを中心に大きく描かれた

その紋章から現れたのは鎖に繋がれた少女…

金髪で黒い衣装を纏い…背中に妖精の様な羽を幾重にも背中に生やし…

月を模った武器を手にしている

紅い瞳をそっと覗かせた


「イセリア・クイーン!!」


アーツの結晶達が一斉に鎖で拘束された少女を見て叫ぶ

シャルが首を傾げた

「凄い強い人…?」

アーツは視線を変えずに口元を

「どの世界にも共通する…神の分身…」

レザードは少女を見下ろしながら高らかに叫ぶ


「申し訳ありませんが…!

これを解くとこの世界の崩壊は決定します!!

クククッ!!さぁ…味わってください…!更なる絶望を…!」


動けない状態の少女の鎖をレザードは解き放つ

ガキンッ!


ズォオオオンッ!!!


羽を羽ばたかせるその少女はゆらりと立ち上がり紅い眼光をヴァン達に向けた



*こめんと*


あまりにも急展開で申し訳ないです…

この設定は元からあったもので…

前の世界も今も知りえるレザードに話してもらいました

ヴァン達を残したのはそれぞれとてつもない者達だったからで…

じゃあクロード達はどうしたの?というと次回をお楽しみに

世界の文明崩壊と共に抗う者達と戦い…

クロード達を精神世界で追いやる…そんな中

皆色々と思い出しましたね

シャルは簡単に言えば前の世界の種族エルフの純血

歌と踊りで世界を変えてきた能力は守護神によって守られてきた

アーツは本当は踊りだけで明日を走って欲しかった筈…

ただ今の運命を打ち砕く為に本来の力を取り戻す…

ヴァンはオーディン、レイアにはフレイとフレイア…

オーディンのグングニルそしてフレイアの力の重なったフレイ姉さんのエーテルストライク…

コワーイ…

都合よすぎるのは仕様です!

そして現れたイセリアクイーン…

このイセリアクイーンはなぜレザードに捕われ…

開放されると世界が終わるのか…!?

クロード達は果たして…?


こうご期待!!!





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