STAR OCEAN Sanctions of God







第十一章








第七部










---作戦失敗 β部隊---


エディフィスはバンデーン艦が落ちた事により大きなクレーターを作りながら火をあげる

地盤を焦がし溶け出した地面

いつしか…元あった火山地帯からいくつも噴火が始まった


ズガァアアアアアンッ!!!


空が噴火による煙で光をさえぎり、大気を刺激し雨を降らす

ざあぁぁぁぁぁぁ…

土砂降りの雨の中火山の溶岩は生々しく吹き出ていた

降り立つ邪竜…

「ブラッド・ヴェイン…がなぜ…ここに…」

ジーネが雨でさえぎられる視界の中

確実に感じる威圧感と紅い瞳

その大きさはゆうに数十メートル

アポトロディウスと比べると小さいが…

人のカタチをするその姿…腕を組んでじっとジーネを見ていた

「……」

ジーネは後ろの施設をチラっと見る

次々に避難していくバンデーン兵

既に部隊として成り立つ事はなく

今戦闘を行おうとしているのはジーネと…ヴァルンティス

まだ施設付近は噴火しておらず溶岩が流れこんで来る事はないだろうが…

ここで戦える筈がない

ましてや未だに魔物がはびこっているのだから…

バンデーン兵達にとっては絶望以外の何物でもない

絶望にうちひしがれる中、精鋭部隊数人が退却してきた

精鋭部隊の代表がジーネに負傷した腕を抱えながら報告する

「申し訳ありません…

5艦隊全てが墜落した事によって作戦は失敗です…

ディブル元帥は連邦と話し合ってもう一度形勢を立て直して対策を練ると…

そうおっしゃっていましたが…

連邦のしがらみもありますから…

1年は最低でもかかると考えてよいと思います…」

ジーネは表情を変えなかった

「事実上我らは死んだという事だな」

精鋭部隊代表はジーネに敬礼した

「死ぬのを待つのと同然ですが

ジーネ様は数百年生きていらっしゃる不死鳥とお聞きします…

その知恵をお借りしたいと思うのですが…

私達に何かまだ出来る事はありますでしょうか?」

ジーネはブラッド・ヴェインと目を反らさずに答える

「ふふ…生きている年月など当てにならん…

こんな状況など経験した事がないからな…

まずあのブラッド・ヴェインをα隊に近づけるのだけは阻止

それは私と…ヴァルンティスは健在なのだな?」

敬礼した状態で答える

「はい!先程連絡で合図があれば攻撃を始めるとの事です!」

ジーネが口元で笑って頷く

「後はお前達は他の魔物達をこの施設に近づけず…

ゆっくりと形勢を変えていけ…私が言えるのはそれぐらいだ

後はα隊に任せる他ない

ここで易々とやられては全宇宙の文明崩壊など容易くされてしまうからな

健闘を祈る」

精鋭部隊代表が再び敬礼した後に違う精鋭部隊兵が疑問点を述べた

「ひとつよろしいですか…

あの竜が…どうして…そのブラッド・ヴェインだと分かったのですか…?

そもそも…ブラッド・ヴェインとは…」

ジーネがエクスペルを思い出しながら言葉を紡ぐ

「相当昔目にしたエクスペルの書物にその名前と特徴があったのだ

違う世界の神に仕える智を持った邪竜であったと…

しかし…あれは外見だけを模っている…」

精鋭部隊兵が難しそうに首を傾げていた

「神に仕える…邪竜…

模ると言いますと…?」

ジーネが答える


「魂がエクスペルの双頭竜だからだ」


皆首を傾げながらも魔物の襲来に精鋭部隊達は施設を守る為に戦い始めた

ジーネは魔物を殲滅しながらゆっくりと施設の方へ下がっていく

レイアの様態が気になったからであるが…

邪竜から目を反らさないジーネ

ブラッド・ヴェインがいる事よりも…双頭竜の魂が…オーラが

なぜあの邪竜の中で渦巻いているのかが分からなかった…


ズゴオオオオオン!!


遠くにいた迷いのないヴァルンティスの一撃が邪竜を捕らえる

ヴァルンティスの力と互角に拳をぶつける邪竜

ジーネは参戦するべく決心を決めるが…

「ジーネ…さん…」

パッと振り返るとシャルとアーツに抱えられたレイアがそこに立っていて

必死に訴えかけた

「私…!クロードさん達の所へ向かいます!!」

ジーネはすぐさま首を横に振ってレイアを抱えて持ち上げる

「そんな体で何が…ッ」

ぎゅ…

突然首元に抱きつかれてジーネが驚きながら施設へ下がっていく

「夢の中で…ヴァンさんに言われたんです…

私が行かないとクロードさん達は負けるって…

そんなの嫌なんです…!明日を手に入れる為に戦ってるのに…

失意のまま終わるなんて…!

ここで何もせずに待つなんて私は出来ません!!」

なぜそう確信を持てるかは分からなかったが…

ジーネはレイアの悔しさを察した

ここまで来たのだ…

もうやることなど限られている…

「お前の力は決して足手まといにはなるまい…

私の背中に乗れ…」

バゥッ!!

魔鳥になったジーネはレイアを乗せると羽を大きく開くが…

シャルがジーネの前に躍り出る

「私も…!お姉ちゃんと一緒に行く!!!」

レイアは反論しようとしたが…シャルもレイアと変わらない気持ち…

ジーネはシャルも乗せる他なかった

「私とアーツが妖精の歌を歌うから…それまでお姉ちゃん寝てて…?」

ジーネは妖精の歌に首を傾げる

その時…施設から負傷した筈のバンデーン兵が次々に武器を手にして出てきたのであった

「どいうことだ…?」

シャルはにっこりと笑いながらアーツを見やる

「我輩らの一族は歌などを得意とするんでプ…その歌は昔から戦況をも左右した…

施設で癒しの妖精の歌を歌ったまででプよ

危ないからシャル嬢には教えたくなかったんプがねー…

もう次の代は絶対教えないプ…」

ジーネは関心する他ない…

「世界はやはり広いのだな…」

シャルがレイアとアーツに引っ張られジーネの背中に乗り込む

「ジーネ?ここを去る前にこの施設の周りを旋回してもらいたいの、いい?」

にこにこ笑顔のシャルはおぼつかない態勢ながらジーネの背中でアーツと共に歌い始める





「♪草木が踊るぅ♪そよ風吹いてー♪」

「♪私達は笑うぅ♪大地を踏みしめながらぁ♪」


簡単な歌詞ながら歌う度にまるで空気が振るえ…

そこにだけ青空が広がりだした

岩肌の大地でさえ…ゆっくりと草木が生えていく…

「紋章術どころの話じゃないな…

まるで創造している…」

ジーネは圧巻しながらもシャルとアーツの歌声に酔いしれた

レイアは静かな寝息を立てながら…夢を見る…



そこはどこか清々しい…風景

宮殿で…私は愛する人の隣で

それが何よりの…幸せだった…













---エクス・トロキア α隊---



ズギャアアアアアアアアアンッ!!!!


幾度となく地響きを起こす中

カルナス・ノヴァと無人君がひたすらに先へ急ぐ

「任務…失敗…」

レナが呟く…

管理局の方から最後の言葉は『健闘を祈る』であった…

「そう簡単にはいかない…宇宙をかけた戦い…

だからせめて僕らが…」

クロードが意思のこもった瞳で先を見つめ続ける


「もし…それがβ部隊が全滅したとしても…

僕らは歩みを止めちゃいけないんだ…!」


クロードはこう言うものの…レナ、プリシスにレオンは相当なプレッシャーと

息詰まるかのような空気に常に緊張感、恐怖が覆っていった





ズドンッ!!!

グランド・ノット行きのエレベーターの天井を破り

カルナス・ノヴァと無人君は一気に上昇していく

魔物を蹴散らしながら進むが…段々と魔物の数が減っていった

「なんだろう…私たちを誘い込んでるのかな…」

プリシスが唇を尖らせながら眉を潜める


ドンッ…

辿り着いたのは…










---コスモシティ---


「なんでまだ…あるの…?」

目の前の風景

相変わらずの平和なガーディアンの街

ここへ来るまでに相当破壊されていたりしたのにも関わらず…

この街は健在していた

ずっと夜の黄昏時な街

街灯が今までの戦いの意味を問うかの様に四人を照らし出す

ガーディアンが色々と喋りながら走行している

変わらず進化しないガーディアン

それゆえその進化を比べる訳でもなんでもなく、ただただこの街で生活していた

それはどこか前と変わらない殺風景な町並みだけども…

クロード達はどこか力を抜いた様子で息を大きく吸い込む

「この街でいったん休まない…?」

そう言ったのはレオン

プリシスは緊張感で押し迫っていた自分に…少しならと考える

「まぁ…警戒は怠らないけど…いいんじゃないかな」

クロードが少し細めたな目でコスモシティ全体を見回していた

「このままの状態で挑むよりかは…いいのかな…ねぇ、レナ」

レナがはっとしながらも頷く

「う、うん…」

レナは満天の星空と町並みにほっとして眠気に襲われていた



一行は一度機体を入り口に置き、歩き始め…

そこへ…

タッタッ!

「ようこそ、コスモシティへ」

そう…レオン達は一度ここへ来ている

このコスモシティには管理人がいて

その娘はリヴァルに似ていた…

相も変わらない笑顔で出迎えてくれる

レオンの表情が一変して笑顔に変わった

「君は…!」

あちらの管理人さんもレオン達を覚えている様で頷いてにこにこしている

プリシスもどこか嬉しそう

「また来てくださったんですね…!」

そう言うとその管理人はレオンの腕を引いて皆を案内した

「歓迎いたします!」





案内された家屋、それはまた大変一般的で…あまり変わりのない部屋

「今日はどうなさったんですか?」

皆が出された紅茶にしたつづみしながらレオンが口を開く

「いや…ちょっと急ぎ様でここの奥に用があるんだ」

管理人が頭を傾げる

「マザーの所ですか?」

クロードが頷いて管理人を見やる

「マザーは僕達の手で破壊したんだ…

でも再び誰かが人々の平和を脅かそうとしている…」

管理人はんーっと唸った後に首を傾げ瞳を閉じた

「マザーはもう存在しないのに私はこうして任を勤めている…

少し変な気分ですが、私達はただ何も知らずに生きています

ガーディアンは言われた事をしっかりこなし…

特に強くなろうとも…競う事もせず…

だから平和が続く…

どうして人は平和が維持できないと考えますか?」

クロードはその質問に色々な物事が一気に溢れ帰り管理人の言葉に即答できずにいる中

プリシスがそっと答える

「人だからじゃないかな…?」

管理人がどこかキョトンとしながらコクンと頷いた

「人だから…」

プリシスはむーっと言いながら椅子の背に大きく寄り掛かる

「またこれも人だからの…それぞれの考え方だと思うけど…

ここのように安全とかが約束されてる訳じゃないから…

他の人よりも一歩進んで生き延びようとする…ってのが基本なんじゃないかな?

それには強くならないといけないし…競うのが自分の個性の確立に繋がるのかもしれない…

だからそれらの欲からの分岐点で平和を望む人がいれば平和を望まない人もいる…とか…

まぁ…私の考えだけどさー」

プリシスがなんだかまだ首を左右に揺らしながら眉を潜める

管理人が再び質問を投げかけた


「では…なぜ戦うのですか?」


それは単純でありながら肉体面でも…精神面でも共通する…戦うという事…

プリシスが唇を尖らせた後、笑顔で即答した


「明日を生きたいの」


その言葉にレオンは誇らしげに「僕もさ」みたいな顔で共感し

クロードとレナがプリシスの元気な一言に微笑んでいてくれる

プリシスは一息置いてちょっと照れくさそうに笑った

管理人がパチンと手を叩き…提案する


「ならここに住んではいかがですか?

明日を生きる保障は確実にありますよ?

幸せになれるかもしれません」


一瞬レオンがその管理人の笑顔と街の平和を考え、心が揺らぐが…

腕を組んで窓の外を見渡した

「明日も将来も保障された世界は凄い安心できるし気楽に過ごせる…

でもそれって…幸せかな…?

それがずっと続いていって…幸せって実感できるかな…」

プリシスがレオンの頭をぐりぐりーっと撫でる

「あらあら不安なのかな〜!?」

笑いながらレナがレオンの意見に頷く

レナの表情はどこかふんわりしていた

「幸せは苦しみや困難があるからこそ引き立つ…

幸せになり過ぎるのはほんの一握りの時間でいいと思うの…」

クロードを見つめるレナは急にクロードの腕にしがみついた

「えい!」

クロードがどぎまぎしながらレナの頭を撫でる

ジッと見詰め合った後にクロードが口を開く


「そんな幸せを守る為に…僕達は戦う

何が起こるか分からないから僕らは走り続ける…」


皆共通した意見…

やはり苦しみや困難を乗り越えながら必死に戦おうとする志

管理人はその言葉達に微笑んで胸に手を当てた

「皆さんお強いのですね…

私には理解するのには難しい事もありますが…

こうして皆さんは頑張っている…私はそれを素晴らしいと思います」

どこか照れくさそうにしているレオンに肘でつつきながらにやつくプリシス

ちょっかい出されたレオンはなんだかすねてそっぽを向いてしまった

クロードがそんな様子を見ながら笑い

レナが口を隠しながら含み笑いする

「レオン変わらないわね…ふふっ」

チラッと管理人を見やるレオン

「どうか致しましたか?」

管理人は首を傾げレオンを見つめている

レオンは少し寂しげに笑った

「なんでもないよ」










「もう行ってしまわれるのですか?」

管理人が少し寂しげに作り途中の鍋料理を抱えながらクロード達に呼びかける

無人君に積み直した携帯食料達を使った料理を管理人に振舞われた四人

相当満足な様子でレオンがお腹を押さえる

「おいしかったよ!」

食べれば食べるほど管理人ははしゃいで作ってしまい

レオンがなぜだかガチ食いしていた

「残念ですが…やらなくてはいけないのでしょう?」

レオンが頷き、グランド・ノットへ続く門を見つめた

「うん、僕らは…戦わなくちゃいけないんだ」

プリシスがカルナス・ノヴァと無人君の点検をし終わり、スクッと立ち上がる

「よっし…これで大丈夫

戦う前に壊れちゃうんじゃないかって不安になってたんだよねー…

まさかここで休憩できるとは…」

クロードがカルナス・ノヴァに乗り込み、周りを見渡す

「確かに…僕らの位置は分かっている筈なのに…

攻撃もしてこない…」

レナが入り口の門から走ってくる二人を見つけた

「レイアとシャル…?」

レナが駆けていく

「レナお姉ちゃん!!大丈夫!?」

戦闘態勢の状態でシャルが駆けて来る

「はぅ!」

どさり…

結構な勢いでつまずくシャル

「ちょっと…シャル?」

レイアが苦笑いしながら駆け寄った

ゆっくり起き上がるシャルは鼻をぶつけたらしく…

赤くなった鼻を押さえ、立ち上がる

後から来たアーツがやっとこシャルの横に降り立ち…

「はぁ…はぁ…なんだか途中のエレベーターが壊れてて…

二人抱えながら飛ぶのは辛い…プ…」

クロードやプリシスが苦笑いする中、レナが三人に問う

「どうして…来たの…?β部隊は…?」

作戦は失敗した事だけを知るレナ達…レイアが真剣な眼差しで答える

「β部隊は壊滅的ダメージを受けました…それでも今は持ち直しています…

ただ…私とシャル…アーツは待つだけのβ部隊より…

少しでもクロードさん達の役に立ちたいと思ったんです…」

レナがクロードを見やる

クロードの乗るカルナス・ノヴァが頷いた

「ここまで自力でこれたんだ…それだけの戦力が加わるのは嬉しい限りだよ…

それに元々連れて行きたかったしね」

レイアとシャル、そしてアーツが微笑みを浮かべた時…

レイアの脳裏にヴァンの声が響く


『おい、あいつヴァルキリーだ!』


レイアが目を見開き、管理人を見やる

その殺気に管理人が気がつき表情を変えた

レオンがざっと一気に身を引き、プリシスがフェイズガンを構える

「お見事です」

ブアッ!!

管理人が眩く光輝くと、そこには地上を破壊した時と同じ姿をしたヴァルキリーが立っていた

「僕らを騙していたんだね…」

レオンがこれまでの記憶を呼び覚ます

料理にいくらでも、なんでも入れられた筈…

「料理に…何か入れた…!?」

プリシスが唇を噛み締めてフェイズガンをヴァルキリーに突きつける

ヴァルキリーは無表情のまま喋りだす

「いいえ…私が見送るまで油断しきっていたら、あなた方を消すつもりでした」

レオンがギリっと歯を食いしばり…構えた

「もし…今のように気がついたらどうするつもりだった…」

ヴァルキリーはレオン達に背を向けて歩き出した

「あの方が制裁するに値するとして…私は一旦身を引くまでです…

運が良かったですね…その子が来なかったら…

ずっとあなた方は油断しきっていたでしょうから…」

言い終えるとそこで立ち止まりスッとコチラを見た


「ですが…ここまで来た人間としてのあなた方の志は十分です」


そう言うとヴァルキリーはスッと消え…

周りの風景も180度一転し…

そう…コスモシティは幻に過ぎない…ここはもうただの瓦礫だらけの街…

コスモシティなど…すでに存在していない…

ただただレオン達はそこで立ち尽くしていた…








*こめんと*


ブラッド・ヴェインの襲来でβ部隊壊滅

シャルとアーツによって持ち直す

クロード達は疲れのピークで油断をしきっていた

レイア達の到着で難を逃れる…


ブラッド・ヴェインの魂はギョロとウルルン

果たして…どう戦うのか…!

そして志を固めたクロード達の前に現れたヴァルキリー

あの方の制裁されるに値する…?

クロード達はレイアとシャルと合流し…

決戦地…グランド・ノットへ


こうご期待!!!





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