STAR OCEAN Sanctions of God







第十一章








第四部









---アクア---




「どういう事…」

レオンが意識が朦朧としながらも上半身を起こした

「簡単に言えば…マザーは僕らが思っていた以上の力で攻めて来るって事…?」

ヴァイは頷いた

「詳しくお話しするには少々時間がかかりますので…

軽くお話しますが…どこまで知っていらっしゃいますか…?」

レオンは質問したい事が山ほどありながらも冷静に口を開く

「マザーは蘇り…進化した先にある崩壊をエディフィスだけでなく…

全宇宙に広げ…まずはそれを阻むであろう僕らを消しに全宇宙に魔物達を送り込んだ…」

ヴァイはコクリと頷きレオンを見つめる

「その通りですが…今までのエディフィスを管理する程度の力の筈だったマザーが

なぜここまで宇宙を理解し、12人の英雄達の居場所を知り…

神をも思わせる者を従わせる程の力を持てると思いますか?」

レオンは息を飲み、恐怖があふれ出す

「分からない…」

その返答に息を付きヴァイは瞳を閉じた


「マザーは存在しません」


レオンが目を見開いて体を振るわせる

マザーの出来る限界は理解できていた…

エディフィスの文明の循環を限界にずっと長い間崩壊を行ってきたのだから…

宇宙という幅に広げられる筈がない

マザーが完全に破壊されたのは事実

そう…敵はもしも違う人工知能だとしても…きっかけは…

元凶は…何者かの意思

リヴァルの可能性もあったが…

現にリヴァルを取り込み、従えている


「……敵は…人…なんだね」


レオンはそう言い切った

ヴァイはどこか悲しみが溢れ出す表情でうつむく

「それも…一個人で行っていると思われます」

レオンは固定された人口知能のマザーだからこその恐怖もあったが…

心の片隅に考えていた最悪の事実

人がこの計画を進めている…

体を押しつぶすような恐怖が生まれる

それは人の限りのない悪を…知っているからこそであった

色々な名目で抗議する団体も数え切れない程存在する

世界の捉え方の違いではあるが…その意思が…思い込みが…関与しているかもしれない

それも一個人…どれ程の力を蓄えているのか…

本当に世界を破壊され兼ねない…圧倒的な敵の力


一瞬考える

その者にとってはそれが正義…

僕らの正義は本当に正しいのかと…




「僕らは…人…地球では学者に過ぎない…

何が…出来るんだろう…」

ヴァイがよりうつむいて悲しみに打ちひしがれる…

「あんなにも世界を救おうとした意思が…

こんなにも相手を知るともろく崩れてしまう

これが人一人の限界かもしれませんね」

レオンが震えの止まらない腕を強く…強く握る

アーツがシャルの様子を伺っている中


ズガンッ!!


アーツはレオンの頭を思いっきり蹴飛ばした

「いッ」

レオンは地面に降り立ったアーツを睨みつけようとしたが…

初めて見るアーツの怒りきった表情にレオンが身を引く


「敵が人だから…?

全宇宙の文明がかかっているから…?

自分一人じゃ何も出来ない…?


それがリヴァル嬢を助けにいかない理由でプか…!?」


レオンは一瞬目の前が真っ白になり、自ら消していたリヴァルが取り込まれる瞬間を思い出してしまった


「う、うぁああッッ!!!」


膝を付き、手を付いたかと思うと地面を思いっきり殴りつけるレオン

アーツは小さな手ながらもレオンの胸座を掴み上げ、睨み付けた


「レオンだけで助けに行くんじゃないプ

皆で助けに行くんだプ

戦いに行くんだプ!!」


レオンが涙を流しながら状態を起こす

どこか表情が柔らかくなっていた

「ここでうじうじして怒られたのは二回目…かな…はは」

リヴァルの笑顔が浮かび、皆の頼もしい表情がレオンの心を満たす

「ヴァイ…ロセや皆は…」

ヴァイが周りを見渡しながら唇を噛み締めた

「宇宙から見てもお分かりでしょうが…全てが破壊されつくされ…

エディフィスに存在する生命は私一人です…

ロセは敵の本拠地へ向かう途中でアポトロディウス達に遭遇し…息絶え…

他のエディフィアン達はこのアクアをエディフィスから隔離した世界に隠すのに…

命を奉げ…あなた方に先程の事実を知らせるべくずっと待っていました…」

レオンは拳に力を込めながらゆっくり瞳を閉じ…黙祷を奉げ、ヴァイに礼を再び言った



アーツはシャルを起こす

シャルは瞳を開けると目に焼きついたリヴァルの姿に身震いをして顔を手で覆う

「うぁあ…!」

アーツがなだめている間にディブル元帥の状態を見て肩を落とすレオン

リヴァルを取り込んだあの少女はディブル元帥を容易く打ち砕いた…

「僕らがふがいないばかりに…」

ディブル元帥は声だけを発する

「力は計り知れなく…神とまで思えた…あのような者は現時点で誰も対処できない…

腕を落とされたが…命があるだけましだと考えている」

その通りでもレオンはディブル元帥に頭が上がらなかった

どことないディブル元帥の固い表情が和らいだ様に感じられる


ズゥォオオオンッ!!!


ヴァイが突然焦った様子でレオンの元に駆け寄った

「申し訳ありません…先ほどの皆様方をここに転送する際に一旦隔離した世界を外界にさらした事で…

魔物が乗り込んで来ました…!

もうここは持ちません…行ってください!」

突然の事でレオンとアーツ、シャルが動揺を隠せない様子で周りを見渡す

レオンはまず通信機を取り出して居場所を知らせ、クロードとの連絡を取った

『レオン!?どこにいるんだいッ!!?』

クロードがすぐに応答し、転送準備を始めてくれる

「アーツ!シャル!ディブル元帥をこっちに!!」

ブゥウンッ

アーツが口をキュッとしめ、右の指先に集中し、ディブル元帥の背中に紋章を描き

クイッと指先を振り上げる

「む…」

ディブル元帥がレオンのいる場所まで瞬時に空間転移し

力を使い果たしたアーツをシャルが抱え込んでレオンの元へ走ってきた

他人の空間転移はセリーヌの二年前では出来ない領域…どの程度の力を持っているのか…

「ありがとうアーツ」

シャルがアーツをギュッと抱きしめながらレオンと瞳を合わせてヴァイに目を向ける

「私は…転送が終わるまであなた方を守りきる義務があります」

そう言って蒼いオーラを手から発しながらこの場所の崩壊をひたすらに食い止めるヴァイ

レオンが歯を喰いしばり、首を大きく横に振る

「ヴァイも生きるんだ!!エディフィスの最後の生き残りとして…!!!」

ヴァイが微笑んでいた


「あなた方は今でもエディフィスの希望です

そして何より私達は星とあり続ける…

星が再び青く染まる可能性がある限り…」


レオン達はその思いにグッと胸を締め付けられながら転送されていった


ブゥウウウウウンンッ!!!!







「死ぬのは怖くないんです…ただ…死ぬ事で…

あの美しいブルースフィアの色をした海が…

空が見れなくなるのが…

怖いんです…」







グガアアアアアアアァァッ!!!







アポトロディウスの声が響いた



























---バンデーンズコロニー---






ブゥウウウウウン…


瞳を開くと目の前には大勢のバンデーン兵が

クロード達が心配そうな表情で見つめていた

「ディブル元帥!!」

「そ、そんなディブル元帥が…!」

「医療班直ちに運ぶのだ!!」

一番の動揺をしたのはバンデーン兵達で、ディブル元帥を囲む人たちでレオン達が埋もれてしまう

運ばれるディブル元帥をレオンが心配そうな表情で見つめるがディブル元帥はどこか微笑んでいた

レオン達は専門仕官に事情を事細かく説明する事数十分

一般民や上部仕官達が行きかう中、やっとの事でクロード達が走って寄ってくる

「レオン大丈夫!?怪我してない!?」

レナが母のようにレオンの体のあちこちを見ては慌てていた

クロードがレオンを見た後に全員を確認する

リヴァルがいない事に気付き、クロードが目で語りかけた

レオンはしっかりとした目で分かる範囲で説明する

リヴァルが少女に飲み込まれた事、まるで神の様な圧倒的さだった事…

そしてエディフィスの人々は必死に生きた事…

ヴァイが伝えてくれた事…託してくれた事

「リヴァル…が…」

レナの表情がレオン達の無事を確認して笑っている筈なのに引きつっていて…

そっとクロードの手を握ってうつむいてしまった

クロードは何か言いたいのかためらっている様子

レオンはハッとしてプリシスを思い出した

「もしかしてプリシスの様態が良くないとか…」

冷汗をかくレオン、嫌な空気が漂う

クロードが首を横に振っている最中に…

視界にプリシスがこちらによろよろとよろけながらもやってきた

「やっほー!皆無事だったんだね…!良かったぁー!ぁいたた…」

レオンはプリシスにも色々とお礼を言わなくてはならない…

命を張って…先手をうってくれたのだから…

クロードとレナが振り返りどこか気まずそうな表情で笑っている

「プリシス…!まだ完全に直っている訳じゃないんだから…!」

レナが心配そうに言うがプリシスは苦笑いで誤魔化す

なぜかプリシスは空元気で…

「大丈夫大丈夫!バンデーンの医療半端ないぐらい高度だったから!

余裕だよ!!

でも確かにお腹を貫通された時は終わった思ったよー!

もう全身打撲で、絶対死んだと思ったもん!」

レオンが疑問に思いながらもプリシスに色々と報告した



プリシスも悲しみの表情で瞳を閉じる

「そっか…エディフィスの皆…頑張ったんだ…」

プリシスがそっとレオンの腕をひしと両手で掴み、にこやかに笑う


「リヴァルはきっと大丈夫だよ!

レオンが助けに来るのをきっと待ってると思うから!

ね!元気だしてこ!」


レオンがどこか気恥ずかしそうに頷いて、シャルとアーツを見つめた

その場であまりの疲れに寝損ねている…


「シャルー!!」


その声にシャルは目を見開き、アーツがそっと瞳を開く

そこにはシャルとジーネが立っていた

「お姉ちゃんッ!!!」

「レイア嬢!」

飛び上がるようにシャルが起き上がり、レイアの元に走っていく

「おねぇちゃんッ!!」

涙いっぱいの満面の笑みでシャルがレイアの胸に飛び込み、うりうりと頬を擦り付ける

アーツもレイアとシャルの周りを飛び回った

「よくここまで頑張って戦ったね…」

レイアもシャルと動揺の表情で合間見え、シャルの傷跡を優しく撫でて、髪を撫で回す

「お姉ちゃん、ヴァンお兄ちゃんは…?いつここに到着したの…?」

シャルが涙を拭いながら色々な疑問を投げかける

「見えないけどいるんだよ〜」

シャルがビクッとして周りを見渡す

「あははッ…えっと…一応さっきかな…?色々入るのに苦労したけど…」

そんな会話をする中で…レオンがジーネに話しかける

「ジーネ…だよね…?なんでジーネがあの娘…レイアと…?ヴァンは…?」

ジーネは雰囲気と威圧感から察する事が出来た

レオンも異色の組み合わせに首を傾げる他なく

ジーネが頷いて仲間全員を見渡し話を切り出す


「久しいなお前達…また会えるとは思ってもいなかった

一応はクロードとレナには簡単に説明はしたが…

ここに来た経路を分かり易く説明する

レイアの事情については

…ヴァンという男は命を引き換えにレイアを救ったで話がつくであろう」


その言葉にレオンもプリシスも動揺してしまった

あのヴァンの事だ…最後まで男らしくあったのだろう、レオンは少し落ち着いてレイアを見やる

レイアが首を横に振る

「ヴァンさんは私の中に確実にいます…!ご安心下さい!」

と可愛らしく指を立てるレイア

一瞬全員、ヴァンが胡坐をかいて寝ているのが見えた様で…

皆笑いながらもレイアともう一人の微かな気配に安心感を覚えた

「そして…」

一瞬ためらってしまったジーネ…ためらうなと自分に言い聞かせる魔族王…


「アシュトンと双頭竜がエクスペルで…

勇ましく戦死した」


レオンは…先程のリヴァルの事で衝撃を受けながら…

ヴァンの事でもどこか悔しさが残る中…

アシュトンとギョロウルが死んだ…?

どうも受け止められなかった

というか意味が分からない

レオンはプリシスを横目ですら見る勇気がなかった

クロードとレナはある程度話され

プリシスが来た時に気まずかったのは…事情を知っていたからだろう…

レナは未だにクロードの手を握って震えていた

クロードの顔を見ると固い表情をしながら必死に笑顔を作ろうとしている





ジーネから全てを話された仲間達は

リヴァル、ヴァンで我慢していたものが溢れる様に…思い思いに悲しみに浸った

クロードは涙を堪えきれずにレナの握っている手をより強く握る

レナはクロードの胸を借りながら…号泣し、レオンも堪えきれずに悲しみをぶちまけた

アーツやレイア、シャル、ジーネさえ…仲間達の思いに胸を締め付けられる以外なく…

あるコロニーの一角は悲しみに満ちていく…

そんな中…プリシスがよろよろとした体で立ち上がった


「ほら!!皆!!ぐずぐずしない!こうしている間にも…

あっちはちゃくちゃくと準備始めてるんだからさ!」


皆よりプリシスが一番苦しい筈…そんな思いを読み取ってレナは再び涙を落とす

誰よりも泣き崩れてもおかしくない…それを空元気で貫くプリシス

プリシスはシャルの肩を掴んで皆の前に立たせた

「ほら、もうレイアも私たちの仲間なんだから!!

自己紹介!」

レイアが皆の空気が違う感じに戸惑いながらも頭を下げる

「レイア・ロセッティです

アシュトンさんや、ギョロさんウルルンさんの事は大変残念に思いますが…

私たちは…先に進むしかないと思います

それが命を落とす形になっても…一人一人…やれる事を精一杯頑張りましょう

こんな私ですが…お役に立てれば幸いです!」

礼儀正しく言った後に皆の空気が少し穏やかになり、レイアの表情が少し和らぐ

次いでジーネが前に出てくる

「事実を伝えるべく来た…そしてもう一つエクスペル最後の魔族として…

仲間として…私も精一杯戦うつもりだ、宜しく頼む」

プリシスが口を尖らせながらジーネを見上げた

「ジーネがいるとすんごい心強いよ!

というか随分丸くなったね!」

などなど話しているうちに仲間達は笑顔を取り戻し、そこへバンデーンの仕官が現れる

「今後の作戦と、様々な対策について話し合いますので、一時間後に会議を開きます

クロード特別隊長他仲間の方々ご出席お願いしますね」

皆了承し、一同一度部屋へ案内されていく

それぞれの部屋を借りながらも…プリシスは一人個別の病室へ戻った







---209831号病室---


ウィーン

「疲れた…」

完治していない傷達は容赦なくプリシスを苦しめる

だがそんな痛みなどどうとも思わない…

そしてプリシスの視界は0に等しくなった

「ぅ…ぅ…ひぅ…く…」







一人になっても堪えようとする悲しみ

あまりにも悲しみが連鎖し過ぎて…疲れすぎて…肉体的にも精神的にも…

でもシャルにまでエディフィスに行く前に励まされた事を思い出す

「よ、よぉーし…わ、私は…ぅ…強い…もんねー!ぇ…ッ…」

プリシスの顔が歪み、ぽたぽたと…涙が落ちていく

リヴァルやヴァンの悲しみは…アシュトンで上書きされ…

「と、というかさ…アシュトンッ…と…ギョロウル格好良い死に方だったよ…ぅ、ぅん!

ほら…だって……だって…私たちの母星を救った英雄として…一生…エクスペルに…ッ

エクスペルを救った…英雄…として…ぅっ…うぅッ…」

プリシスは泣き叫んでしまった


「うぁああああん!!!うぅ!!

ぅッ…うぐ…うぁあ!!」


部屋から漏れるプリシスの泣き声、部屋の外でレオンとレナが足を止め、帰って行った


少しは落ち着いてきたプリシス…

プリシスはアシュトンのしわくちゃの写真を机から取り出し見えないながらも写真を見つめる

「えへへ…こんなになるまで…ギュってしたんだよ…?ねぇアシュ…トン

同じ不安を我慢しろって言われるかもしれない・・・けど…

同じ様な不安抱えるなって…無理なんだよ…?

だって…人間だもん…いつでも…不安なんだよ…?」

写真に呼びかけるプリシス、彼の名前は言うたびにプリシスの胸は張り裂けそうになった

「アシュトン…いなくて…寂しくていつも一人…泣いて…泣いてッ…ぇ

本当…昔の私の勝手な…態度の…恨みかな…ぁ…

うぅ…ぁああ…あはは…」

また涙が溢れる事が悔しくて…悔しくて…

ついに吹っ切れてしまった


「アシュトォンッ!!!

アシュトンアシュトンアシュトン!!!

大好きなのッ!!ずっと側にいて欲しかったの!!

一秒でも多く触れていたいのに…!!

いっぱい甘えたいの!!

色々な夢がいっぱいあったの…ッ!!!

会えると思って…

我慢してきたのに…してきたのにぃッ…!!!


なんで…なんで死んじゃうのさぁッ!!!

ばかぁッ!!!

エクスペルなんていいんだよ!!

私は…アシュトンさえいれば…いれば…

うぅッ…ぁああああああッ!!!

ぁあああああ!ぅ…はぁ…!ぅぅ…ぅうう!!!」






プリシスは会議に現る事はなく、作戦実行の時まで…プリシスは部屋にこもり続けた




*こめんと*


待っていたかのような…立ちふさがる大きな敵

そんな不安で…リヴァルを奪われ…

ヴァンは死に、アシュトンとギョロウルの事実を伝えるべく現れるジーネ

こんなにも悲しみの連鎖が続く…

世界を救うという中で…英雄達はそれを覚悟していた筈なのに…

命を儚くも尊い…皆人間なんだから…生きて帰れる保障なんて…これっぽちもない

それでも彼らは…彼女らは…進み続けます


こうご期待!!!





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