STAR OCEAN Sanctions of God







第十章








プリシス













---カルナス艦内 メンテナンスルーム---





「ごめんね…無敵君…君は本当は芸術品として…残しておきたかった」

プリシスの声が響く広い空間の中でプリシスは

無敵君の胴の入り口でメンテナンスを行っていた

その様子を見つめるレオン

一緒に手伝って行わなければそれぞれの担当部分が違って修理できない

プリシスはただただどこか哀しみが漂う中で作業を行っていた





一旦二人で休憩を取りながら無敵君を見上げているプリシス


「私達…こんなところで何してるのかな…?」


無敵君に…レオンに…自分にだろうか…そう呟いた

レオンは無言で汗をふき取ってプリシスと共に見上げる

「僕にも…よく分からない…エクスペルでの戦いだって…

エディフィスでの戦いだって…ただ生きるのに…

戦うのに必死で…精一杯で…

今こうして僕らは宇宙がエディフィスのマザーから

宇宙の侵略を食い止めようとしている」

プリシスは余計に沈んだ様子で膝を抱え…顔をうずめた

肉体的には次の作業に取り掛かるには申し分ない体力がある

それでも精神的にレオンもプリシスもリヴァルも…

やっと事の重大さが分かってきたシャルも…


不安でいっぱいだった


膝を抱えるプリシスはひたすらに心で呟く…




















私達みたいなちっぽけな人間が…

宇宙を守る?

宇宙の人々を守る?

星達を守る?

時々思ってしまう…

だから…何?くっだらなーいと…

私は大切な人と一緒にいられればそれでいい

…なんてこと…いくらでも考えたし…気持ちを切り替えてきた


十賢者戦は…普通に旅をしていたら辿り着いた場所

目の前に敵がいるから戦った…それだけなのかもしれないし

エディフィスはエルネストとオペラを助けに来たら星が危険な目にあっていた

勿論見逃すわけにはいかないから戦う

これで…終わったと思った


最初は試作のロボット、無人君で戦ったんだ

凄い楽しかった…だって自分で作ったので戦えて…皆の役に立てた…

地球に来て…少し遊び心で学校の合間を縫って無人君に改良を加えて…

急にエルネスト達がいなくなったから、何かあるかもしれない

不安でいっぱいだったけど、改良型の無人君を持ち込んで…なんとか役に立てた

ここまで冒険すればもう凡人として十分で…

後はアシュトンと家庭を築いて…幸せに暮らす…えへへ


逃げようかな?

こんな宇宙を守るなんて…馬鹿馬鹿しい…

もう私20歳になるけど…自分を守るのに精一杯なのに…宇宙を守るなんて無理

悪の根源を絶とう?何さ悪って、マザーが本当に悪でいいの?

正義なんて一人一人違うんだよ

そんなよく分かんない世界を全部守る義理なんて…どこにもない










「一般論述べてるようじゃこの戦い乗り切れないよ?」

レオンが不意に発した言葉に…プリシスは溢れかえる涙で顔を上げる

本当は上げたくない…泣き顔を…元気な私のイメージを壊してもらいたくない…

でもレオンは構わない…

エクスペルからずっと同じような道を選んで進んで来た仲間だもん

いっぱい泣かせてもらった時もあったしね…

アシュトンいなかったらすがりついて…好きになりたいところ…

精神的に不安定な時に危なかった時はあったけどさ…

意地悪だけど冷静でしっかりしてる…最近は大人びて格好良い…

こんな事アシュトンには言えないけど…

見上げた先の無敵君の顔

最終的には人を模したロボットになった

人は自らを自由に守り攻撃するのに一番進化した形

作った時には地球のすんごい昔のロボットの

漫画みたいって馬鹿にされていじめられたし…

なんか宗教的なモノが関与してるとかどうたらこうたらとかも…

趣味っていう領域じゃないけど…

ただ私は探究心だけは忘れたくなかった


地球に来て最初は凄い様々な事を学ぶのが楽しかったんだ…

でもいつの間にか私はそれらを当たり前に思って

成熟化している学問に嫌気が差しながら、固定された考え方

決まり…法則…を叩き込まれる

それが学生全員に浸透して大人になっていく

探究心なんてあったもんじゃない

最低限は守るけど…なんてつまらない世の中なんだろう…そう思った


学校楽しいよ!友達いっぱいいるよ!アシュトンにそう言い続ける私

恋人に全部言えるわけないんだ…言えない事だって山ほどある…

女の子だから色々あるよ…私案外可愛いらしいしね…

元気が取り得!そう私に言い聞かせないと…もたなかった今まで…

レオンが…クロードやレナがいたから私は笑えた





「エクスペルにいたら私は元気でいられたかな?」


レオンは難しい顔をして目を細めた

「エクスペルなら模範の大人の背中を見ていけば少しは…

でも地球はあまりにも人の思考が混濁していて…

何が正しいか分からなくなる…」

そんな事を言われるのを期待してないよレオン…

頷くだけで良かったの…そんな分かりきってる事…押し付けないで…

レオンが悩んでいない訳じゃない…前に聞いたけど…

独りになったりなんだりはもう慣れっこなんだってさ…

私には無理…

「無敵君で戦うのどうだった?」

レオンから一言

戦いたくないなんて言ってられないよね

「思ってたより戦えたかな?」

作っているうちに上部機関の方で目をつけられて

戦争兵器扱いになった無敵君…

それから少しは友達がからかわなくなったけど…まぁ…いいや

「作ったときに乗りにのっちゃってついつい昔のロボット漫画の

色々なのつけてみたんだよね〜

ロケットぱーんちみたいな!というかそれを

私がエクスペルで使ってたのって運命感じるよ!!」

こんな夢のある攻撃を作らないと自分はただの地球の最終兵器を作っている…

そう思ってしまうのだけが怖かった

そんな最終兵器に乗る私…なんだかよく分からない


「とにかくメンテおわしちゃおうか」

私は笑ったような気がしたのだ

笑ったような…

ぎゅ

「わ」

私はレオンに抱きしめられている

アシュトン以外の人に甘えるのは駄目なのは分かっていても私は少し泣いて…

肩の力を抜いた

「本当…困る相棒だよ」

レオンが少し照れ気味で背を向ける

ひょこひょこ頭を下げながら私はメンテに取り掛かった

少し前向きに考えながら…


私には紋章術も…武術も剣術もない…一応フェイズガンは持っていても

誰でも打てる代物…

だから私には無敵君しかいない

無敵君がなくなったらただの無力な人間

決意が固まったプリシスはレオンに叫ぶ


「面白半分につけたの全部外して!

装甲強化にその他もろもろ強化しよ!」


レオンはどこか寂しげな表情で笑っていた

余裕がない私を見透かされんだろうな…


もう…遊んでいる場合じゃ…ないんだよ私










---プリシスの部屋---



ぷしゅー

ドアが開いたと同時に前のめりになりながらベッドに倒れこむ

またマイナス思考になってはならないとプリシスは自分のモニターを開いた

「メール…295件」

出発してから見ていないんだから…しょうがないかな…

適当に内容をみながら消していく

七割が広告やらなんやら

他は…ため息か怒りしかない文だらけ

全部消そうと思ったときに目に映る名前


【アシュトン・アンカース】


アシュトンのアドレスじゃないのにアシュトン?

誰かのいたずらだと思って消そうとするが一応見てみる


プリシス


とだけ書かれているだけ…

これだけ?私とアシュトンの関係を知るのはいくらでもいる

よく分からないアドレスは調べようとすると強力なフィルターで全てを拒む

「こんなに強いフィルター…連邦の上層部並かそれ以上…」

悪戯には少し無理がある…私宛に送った所で得する人など存在しない

「本当に…アシュトンかな…」

その瞬間にアシュトンがレナと共に行ってしまったことを思い出す

最後はいがみ合いで去ったアシュトン

「もう…その事で悩まない事にしたんだから…!

アシュトンとレナはクロードを連れて帰ってくるよ…!」

なんとか感情を沈めながらメールを見つめる


プリシス


「本当にこれだけ…?もっと下にあったりー…ないなぁ

まずアシュトンじゃないって思えば消すだけでいいんだけど…うーん」

アシュトンからだとしたら何を意味しているんだろう…

こっちに何か伝えたいならしっかりとした文を送るはず…そう

アシュトンじゃなくてクロードやレナが…

私個人に送るなら『元気にしてるー?』『こっちはまだ見つからないよ』

とかだと思う…からかうってことは今はしないはず…





ゾクッ―――







もしも…アシュトンが…キケンナメニアッテイタラ…







これだけしか送れなかった…?




嘘…うそ…うそだよ





嫌だ…え…え?





「あはは…私ったら大袈裟〜!アシュトンの事になるとついつい…」

そんな事を言いながら目の前がぼやけて見えない自分に怒りがこみ上げる

「何…強がってるの…私……くぅ…ぅッ…」

自分の顔を手で覆い、唇を噛み締めた

頭がぼんやりしだして顔を上げる

机に置いてあるアシュトンの写真

憎らしいほどの笑顔

少し放心状態になりかけながらそれを手にとってギュッと抱きしめる




こんなので落ち着くわけがない…




アシュトンの写真を見つめてプリシスは抑えていた涙を落とす

ポロポロと涙がこぼれていく…



最近初めて愛の意味が分かり始めて…



心と体がアシュトンを求めてどうしようもなくて…



どうしようも…なくて…



「うぅ…ぅッ…ひぅ…ぅぅ…」



ワタシハナニヲシテイルノ…?




「んっ…」

プリシスは写真のアシュトンに貪るようにキスをして…

何も反応のない笑顔のアシュトンに再び涙を落とす

それでも目の前のアシュトンが本物であってもらいたいかのように…

のだえながら小さな唇を何度も写真に触れさせる私…


キモチワルイヨ


あるはずの大きい体は空振りするだけ…

ぬくもりも何も…ない





大好きでしょうがない…一分一秒も離れたくない頃なのに…







側にはアシュトンがいなくて…不安な私はただひたすら泣いて泣いて








壊れた























---カルナス艦内 メンテナンスルーム---




「格好いいね!」

シャルが無敵君を見てそう言った

私は気が滅入りながらもメンテナンスをしていた時に

リヴァルがシャルとアーツを連れてきた

「素晴らしいプ…!よく作りましたプー!!」

アーツでさえどこか感心している様子

リヴァルは後ろで私達を眺めていた

私はシャルの横で腕を組んで見つめる

「でもこの機械のロボットは戦う為にここにいるんだよ」

シャルが首を傾げてプリシスを見上げる


仲間じゃないの?


プリシスは何故か胸からこみ上げるものに瞳が熱くなった

仲間…無人君とは違うけど…ずっと側にいてくれたのは…

無敵君だったのかもしれないね…

涙を払うと再びシャルが質問をしてきた


「プリシスお姉ちゃんは…

なんで戦うの…?」


一番…聞かれたくなかった質問…だよ…

心が壊れる音がしたけど…これしか言えない

「分からないんだなぁー

シャルはどうしてここに来たの?」

シャルの純粋無垢な心に問いつめたくなってしまった…

駄目だと分かっていたのに…


「こわい悪魔さんが皆を消しちゃうっていうから…

そしたら私踊りの練習ができなくなっちゃう

そんなの嫌だから」


本当に真っ直ぐな答え…昔の私なら…そう答えられた…かな…



そう…皆の為だって全面的に思うから…駄目なんだ…



私の…明日の未来の為に…




「う、ひぐッ…くぅ…ぅ…うぅ…」

遂にプリシスはシャルの前で泣き出し

いつの間にかシャルに頭を撫でられていた

「昔レイアお姉ちゃんが言ってたの

何か困ったり、迷った時は…


前だけ見ればいい

信じる事を信じればいいって」


その言葉に胸が張り裂けそうな苦しみと何かが吹っ切れた様な気持ちよさ

もうなんだか分からないけど…私の心で何かがしっかり固まった気がした


「お姉ちゃんは…悪魔さんを倒したら…どうしたい?」

プリシスは涙ぼろぼろでありながら笑ってこう答えた


「大好きな人と一緒にいたい!」








そうだ…地球なんて時々行ければいい…エクスペルでアシュトンと一緒にいよう









別にエクスペルじゃなくてもいい!









アシュトンと一緒にいられれば!!!










---カルナス艦内 メインルーム---



「エディフィス見えました」

リヴァルの声でエディフィスがモニターに映し出される

ブルースフィアの様な色など…もう面影も無い

灰色がかった茶色の星がそこに映っていた

「拡大します」

地表面ギリギリまで拡大した結果…

着陸できそうな場所にアポトロディウスが破壊の限りを尽くしていた

「どうするプリシス…これじゃ着陸できない…」

レオンがどうしようもない…そんな表情の時…

プリシスはニヤリと笑った後に腕を組んで見せた


「上等!私と無敵君で殲滅してくるまでだよ!!!」


リヴァルが、レオンが…シャルがアーツが…笑顔に戻った

そう…元気な振りする必要ない…











ただ私は…!前を向いて突き進むだけだから!!!











*こめんと*


書いててほんとーにッ!苦しかったです!

プリシスの感情を全て書きつづったらきりが無いのでですが…

本当に辛い状態のは確かだと思います

アシュトンはレナと共にクロード探しへ

その安否だけでも心配なのに…

この先に待ち受けるもの…振り返れば辛い過去

どうしようもない状態でのアシュトンらしきメール

メール…メール……

運命はいつも残酷で…プリシスを追い詰め

それでもシャルの純粋な言葉に我に返り…歩き始める

そう…これから始まる…世界を…自分の明日を守るための戦いに…


こうご期待!!!





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