STAR OCEAN Sanctions of God







第十章








バンデーン










変更:統括→ディブル元帥


---バンデーン艦内 メインフロア---




「れ…レナ…?」

クロードが苦笑いしていた

「な、なぁに?クロード」

レナも同じく苦笑いしている

「えと、連邦の英雄達?え?さっき話さなかった?」

「ご、ごめんなさい、分からないのー…」


バンデーン艦でのちょっとした休みの一時

人種が違い、反連邦の敵である連邦軍の元軍人達のクロードとレナ

てっきりエディフィスへ着くまでバンデーンの人達と話す事はないだろうと感じた二人

もしかしたら連邦の恨みから攻撃を受けるのでは…とまで考えたのだが…


バンデーンの人達から質問攻めなどにあっていた


恨みというよりも地球の人やレナの人種に興味を抱いているようで

バンデーンの子供からお年寄りまで話しかけられている

内容も様々で…

「地球人って他の種族とどう違うの!?」と小さい子が

「ディブル元帥に認められた程の腕前…私と一戦交えていただきたい」と戦闘兵が

「地球のレベッカは元気かの?」と目を細めた老人が…

とにかくクロードとレナはてんてこまいで、苦笑いしていたが

バンデーンという種族の見方がまた変わった、それだけは確かであった


























---バンデーン艦内 牢獄---








「なぜ私を殺さない」

ヴァルンティスは牢の前でたたずむディブル元帥を睨みつけていた

ディブル元帥は無言のままただ哀れむ瞳で見つめ続ける

そんな表情にヴァルンティスは苛立ちを覚える他なかった

「お前は無期限の牢獄送り…

なぜそうなったかじっくり死ぬその一時まで考えるがいい」

今の時点でヴァルンティスが思いつくのは

目の前で偉そうに見下すディブル元帥への恨みや苛立ち

「理由など当に分かりきっている事だ

だから今すぐにでも殺せばよいだろう?


それとも…息子を殺すのがそんなにも怖いか?」


ディブル元帥は動じずに背を向けた


「そんなにも殺されたいのか?」


その言葉には一切の温かみは無く、ヴァルンティスはその背中に恐怖を感じた






昔から変わらない私への態度…

ディブル元帥は…父は素晴らしい人だということは小さい頃から知っている


バンデーンという種族のトップ


偉大であった祖父は連邦の存在を知り

星のバンデーンをかき集め連邦によって悪影響を…

都合の良い星に変えられる現状などに、救いの手を差し伸べた

最後まで連邦に小さきながらも反抗した祖父は連邦の裁判で死刑を判決されたそうだが…

その志を引き継いだ父

その息子として良く扱われてきたが救いの手を差し伸べる理由が分からない

私は言われた事は全てこなすエリートであるのは間違いない

周りには触れ伏して貰えればいい

だが父だけは私を認めようとはしないのだ

それが納得いかなかった

しっかり仕事もこなし言われた事はしてきた

エリート過ぎる息子に嫉妬でもしてるのですか?

と聞いた時があったが…


「エリートなどどうでも良いのだ」


意味が分からなかった

じゃあ失敗でもして周りからの重圧で世界が嫌になれとでもいうのか?


くだらない


そんな奴は敗者以外の何者でもない

絶対的な意思と、全てをこなす能力

求められるモノは持っているのだ

それを父は求めていない

何が悪い?どこが悪い

なぜ認められない

なぜ…クロードなどという連邦の軍の犬に期待を抱く

あんな…愛する者も守れそうもない…


ちっぽけな人間に


ディブル元帥は背を向けたまま歩き出した

ここで逃したらもう父の顔を見る事はないだろう

そう考えて私は挑発するかのように声を発した


「殺されるのなら…

さっきのクロードという男に殺されてみたいものだ!」


動じなかったディブル元帥が立ち止まり呟く


「今のお前では勝てない」


ドガァアアンッ!!!

目の前が一瞬プツンという音がした後に気が付けば檻を破壊していた

「やはりその檻ではお前を閉じ込めるのには無理があったか」

その余裕そうな表情と軽い口調

怒りを増幅させる態度にヴァルンティスは怒りを右拳に込めた

だがどんなに力を込めても波動の根源が生まれてこない

そこで血の気が引くのを感じた

「今の今までお前は私に手を出した事がなかった

そこまで冷静を忘れたか?

それとも闇雲にでもなっているのか?」

バンデーンでしっかりとした波動の力を扱える継承者ヴァルンティスは主である

ディブル元帥が全ての源を持ち

波動の力を継承者に断絶する事も可能になっている、その事を忘れ…

勢いに任せたヴァルンティス

ヴァルンティスは今までディブル元帥に、父に拳を向けた事ない


次元が違い過ぎるのだ


牢に入れられた事で正気を無くしたと感心したヴァルンティス

肩を下ろし、ギュッと拳に力を入れた

そう…昔から味わってきた…

父という壁

反抗しようにも一切の隙が存在しない…

小さい頃のヴァルンティスでも理解しきっていた

その力、圧力で押さえつけるのを違う解釈で覚え、成長したヴァルンティス

理解をする事ができなかったのだ…

今、ディブル元帥の恐怖にあおられ

父に反抗し死に直面するこの状況下で…


初めて死ぬ恐怖を感じた







失う物など何も無いはず






悲しむ者など誰もいないのだ





なのに…









疼くのだ…









父を、ディブル元帥を…








超えるという野心が…志が










ヴァルンティスはしっかりと地面を踏みしめた

何故かこの状況で震えが止まらなくなりながらも、心は落ち着いている

長年心に秘めていた…言葉達があふれ出す


「私は部下達を指示に従う物としてしか見えない


ディブル元帥…いや父様がそういう風に扱ってるようにしか見えなかったからだ


私は力を手にし父様を殺し、バンデーンを支配するつもりだった


父様の壁が私にとっての恐怖であり、その恐怖を抜け出したい一心

昔から私はそれ以外の野心を抱く事が出来なかった!

父様を超える事が私の全てだからだ!!!」


真正面から父の目をここまで見据えたのは初めて

恐怖を通り越して、胸が締め付けられる気持ちになった


「お前は私に…クロードにも勝てない」


分からない…

分からない…分からない


「どうすれば…勝てる」


表情を未だ変えないディブル元帥が一言呟く


「志の強さだ」


ヴァルンティスは一瞬凍りついた

私の志…が?

父を超えるという生きてきた野心を…ッ


「今まで生きてきた志を…否定するのかッ」


ディブル元帥が目を細めてヴァルンティスを見下した


「他の者の志を否定するなど誰も出来ない


だが…私だけを見て必死にもがくお前では

一生クロードには勝てない」





怒りは頂点に達し、プライドがずたずたにされた事に歯を食いしばる


「ならば!!クロードと波動なしの状態で戦わせもらいたい!」


ディブル元帥はただ瞳をそっと閉じた

「勝てぬぞ?」

それでもと言わんばかりに目を見開き、頭を下げた


「戦って、己を見つめ直したいのだ!!」


ディブル元帥は初めてここまで必死なヴァルンティスを見て笑みを浮かべた

「好きにするがいい」























---模擬練習場---




クロードは落ち着いていた

「お兄ちゃん頑張ってー!!」

クロードを熱く信頼した小さい子供

「旦那ぁ!!そんな勝手な罪人倒しちゃってください!!」

などなどの声援が飛び交う

クロードへの応援がほとんど

「クロードふぁいとー!」

レナが応援に混じりながら頑張って声を出しているのを見て少し含み笑いをしてしまったが…

クロードは目の前の罪人、ヴァルンティスに目を向けた

前に戦ったヴァルンティスとどこか違ってる

ディブル元帥に罪人、ヴァルンティスを殺して構わないそう言われたが…

クロードは何も考えない様にして、剣を握り締める

「それでは、罪人の処罰をバンデーン兵緊急特別部隊長から直々に裁きが下ります

では…どうぞ!!」



ダンッ!!

まず踏み出したのがクロードだった

波動が遠距離にいる事で不利になる事は分かりきっている為先手を打る

だが波動をどうにかできる保証は無く、ただ自分のスタイルで戦う、それだけ

ヴァルンティスと接触…

ズゥウオンッ!!!

剣がヴァルンティスを捕らえる前にヴァルンティスは気だけで周りの空気を膨張させ

剣を一撃で吹き飛ばした

「波動はどうしたッ!」

クロードが瞬間的に質問をする

ドガァッ!!

拳と拳のぶつかり合い

手ごたえがあり、ヴァルンティスは少しだけ軌道をずらし、斜めから鋭い突きを繰り出す

「使わぬ…!正々堂々己の肉体でぶつかる!!」

ゴッ!

突きを平手で軽く流し、クロードは笑った

「それは良い事だね!」

恐れるものが無くなった二人は激しいぶつかりを続け、少しづつヴァルンティスが押され始める

「クロード!私には何が足りない!!」

ヴァルンティスの余裕そうな言動とは正反対に素早さと重量を兼ね備えた連蹴りを確実にクロードに当てる

ブロックをしても体力を消耗していく攻撃にクロードは苦笑いしながら

「技術は問題ないと思うんだけどッ…!」

他の者から見ても波動を使わないヴァルンティスは流石のバンデーンのエースだと皆に確信させる

ゴォッ!!

「がはッ!」

クロードが避けそこなった拳が肩を捕らえて態勢を崩し、地面を転がった

ドンッ!!!

態勢を立て直す寸前にもう一打腹に蹴りをお見舞いされ、クロードは壁に叩きつけられる

「うぐぅッ!!!」

クロードは目を開けるのが精一杯の土煙の中、突っ込んでくる影を睨み付けた

「私は元帥を超え!!強くなる!!お前はその糧だ!!!」

ヴァルンティスは波動なしでもここまでクロードを追い詰められた

その安心感に油断をしていた

「そんな思いにッ!!!僕は負けないッ!!!」

その言葉でヴァルンティスは焦りを覚えた

「そんなッ…想いだとッ!!!お前も私を否定するのだな!!」

ズガァンッ!!!


一瞬だった


ヴァルンティスは壁にもたれるクロードを見失い後ろからの攻撃に自分が壁に叩きつけられた

「くッ!」

ヴァルンティスが振り向いた頃には剣が目の前に突き立てられていて

クロードがまるで見下しているかのようだった

「ちぃッ」

ヴァルンティスは殺される覚悟は出来ている筈なのだがあまりの悔しさに震えるが

クロードはそっと微笑んだ


「強い人なんていくらでもいるよ

戦う事が全てじゃないと思う」


何を言っているか分からずヴァルンティスは呆気に取られクロードの瞳を見つめ

そこからヴァルンティスは気絶した



戦う以外に…勝つ…だと…?




















---メインホール---


「すまなかった」

ディブル元帥がクロードに礼をして瞳を閉じる

「いえ…お役に立てたなら…本望ですが…」

ディブル元帥が哀しい表情で何気ないモニター画面を無造作に見ていく

「よくある話だが私は早くに妻をなくしたのだ…

私は威厳と父として上官として教える事しか出来なかった

ただ…それだけなのだがな…」

あまりにも父が偉大過ぎた

クロードにもある程度理解する事は出来るが…

種族を仕切る人が父で母親がいないとなるとどうなってしまうのだろうか…?

想像がつかない

「ご察しします…」

そう言うとディブル元帥は少し笑みを浮かべた後

いつもの表情で少し頭を下げた後にこの場を去った





本当にこの星々の海の中では様々な気持ちが行き交う…

その中で必死に生きるのは自分だけではない

改めてクロードは確認しながら、明日はヴァルンティスに自分の昔話をすることに決めた







バンデーン艦はエディフィスへ順調に進路を進めている







*こめんと*

今回はバンデーンの中でのお話し

本当に色々な種族がいるけども、親子の価値観は人と変わらない

クロードの今まで積んできた冒険の数々

その中で確信を持って言える事「強さばかりが全てじゃない」

頭で理解しているつもりでも、本当に経験していかないと分かりえない事も多いですね

志さえもひたすらに悩み続けるそれが定めですねー

と、次はプリシス達のエディフィスへ着く寸前の物語


こうご期待!!!





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