わたしだけの勇者様










十賢者戦を終え、連邦で働き出した私、レナ・ランフォードは口を尖らせていた

休憩を終えて施設内のカフェで一人待ったりティータイム…のはずなのだが…

私はどこかむすーっとしている

その理由というのも…

クロードの同僚の方などは皆口を揃えて同じような事を言う

『あのクロードが世界を救ったとは…ねぇ…?思えないんだよ…うん』

『何かの間違いじゃない…?』

『いやいやいやいや…ない』

どれだけクロードが地球で反抗していたかが垣間見えた

それでも少しは信じてもらいもので…


「本当…なんだかなぁ…」

私はオレンジジュースをすすりながらテーブルに肘をついてはため息をつく

「あ、レナ!」

プリシスが少し大人びた学者の服を着てランチボックスを片手にレナの前の椅子に腰掛けた

もう時刻的にはおやつの時間

プリシスの疲れようから見て今がお昼なのだと直感したが…

「本当…もう朝昼抜いて今何飯ー?見たいな感じ…

アシュトンが今家に遊びに来てるから栄養バランスはなんとかなってるんだけどさぁ…」

ぼーっとしている様子のプリシスをジッと見つめる私…

「ど、どうしたの…?何か嫌な事でもあった?」

私は頬を膨らませて目線を落とした


「クロードが勇者様だって誰も信じてくれないのよ…!」


ぶっ

プリシスが吹いたのに私は結構な苛立ちを覚える

「な、そうやってプリシスもクロードを馬鹿にして…!」

プリシスは腹を抱えながら右手をぶんぶんと横に振った

ごくごくごくッ

「ぷはぁッ…えーっと…んふふふふ…」

水を飲んで一息ついた筈のプリシスが再び笑い始める

流石に私はプリシスを優しい笑顔でにらみつけた

「くふふ…えっとさぁ…レナ…皆に勇者様っていう名目で聞いたの…?」

私は目をパチクリさせながら右手でちょっとを表現する

するとプリシスが少し戸惑い気味の私を見て涙を拭きながら微笑んだ

「えっと…別に馬鹿にしてる訳じゃないんだよ…

レナの解釈が…えっと…くふ…ふふ…

勇者様って言葉自体がこの地球じゃ英雄とか…そういう風に使われているんじゃないかな…ふふ」

私は一気に顔を赤く染め上げて顔を手で覆った

「わ、私の勇者様ってのが…幼稚なの…かな?」

プリシスは笑いながら首を横に振る

「レナらしいよ…うんうん」

私は含み笑いを続けるプリシスにどこか恥ずかしく思いながら席を立つ

「じゃあやめる…勇者様って言うのやめる!」

私は駆け出した

プリシスに呼び止められても私はムキになりながらその日を過ごす





---自宅---


「ケニー少尉お疲れ様」

クロードが仕事から帰ると共に私は出迎える

クロードはその呼び方にため息をついてしまった様子

「ここはプライベートなんだからさ…少尉って言われると仕事が終わってないように思えちゃうよ…」

私はしゅんとなってお盆を両手で持ってそそくさとキッチンへと向かう

ぎゅ…

「わ…」

突然後ろからギュっとされるのは私にとって何よりの幸せ

私はクロードの大きな腕をひしと掴んで頬を擦り付ける

クロードがどこか心配そうに私の顔を覗き込む

「どうかしたの…?今日は同僚に色々と冷やかされたけど…何か言われた?」

私はむすーっとした後にクルリとクロードに向き直った

ぎゅ…

何か言う前にクロードが抱きしめてくる

安心感で私はついつい、うとうとと…

「ちょ………クロード…寝ちゃうよ…」

むぐむぐとクロードの大きな胸板から顔を覗かせると私は呟く


「クロードは今でも私の勇者様…?」


少しばかりクロードが固まっていたが…クロードも笑い始めた

私が頬を膨らまして八つ当たりする前に、クロードに髪の毛をぐちゃぐちゃにされる…

「もぉーなにーッ?」

ちゅ…

クロードが額にキスをしてくれた…

「え、えと…ぅー…」

そんな私の反応を見て楽しんでいるクロードは私の頭に顎を乗せる

「レナにはいつまでも…僕を勇者様って思ってもらいたい…」

その一言に私はボッと顔を赤くしてクロードの裾の端を掴む

「皆笑うんだもん…古臭い…とか可愛いとか…」

クロードが笑っていた

何がおかしいのか…それが分からないまま急に顎をそっと掴まれて…唇と唇を触れさせる

「ん……ふッ…ん…」

誤魔化されているかのようで私は良い感じではないが…気分的にはもうふわふわしていた

「レナが勇者様と思ってくれたからこその出会い…

その最初の心を忘れちゃいけないと思うんだ…

だから…」

私は口をはさんだ…付け加えただけのはずなのに…

「えと…それは勿論なんだけど…

クロードは…私がピンチになったらね…

白い馬に乗って助けに来てくれるの…

それで手を差し出してくれて…

ッて…わぁッ!!」

突然抱きかかえられて…クロードはお姫様抱っこをしてくれた

「こうするのかい?」

クロードはニヤニヤしているのか、笑いを堪えているのか分からない表情でジッと見つめる

「うー…えと…私重いよ…ちょ…クロード?恥ずかしいよ…」

上目目線でクロードを見つめながら身を縮める私

小さい手ながらクロードの胸の服を掴む

ぽたぽた…

笑ったから…?なぜだかクロードは涙を零していて…


「僕が思っていたより…女の子だよ…レナ…かわゆ過ぎる…」


ソファーにゆっくり下ろされる私…クロードが語った

「別に僕は勇者って言えるほどの人間じゃない…

それを他の人に共有しなくていい…でもレナは僕を勇者様と呼んでくれる…

僕はそれだけで満足できるよ…」

私は頷いてクロードの首に抱きつく


幸せでしょうがなかった


甘えてばかりはいられないけれど…



あなたは



私の日常を変えてくれた…



今まで見た事のないモノを見せてくれた…



私の世界を変えてくれた…



そうそれは紛れもない事実…



だからこう呼ばせてください



私だけの…勇者様









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